満月のルビー27
「大丈夫だ、ほら、もっと身体の力を抜いて。……綺麗だよ、ヨシユキ」
「せん、せ……。……ン……!」
 先輩の声がくぐもったうめきに変わったとき、山崎はゆっくりと入口の引き戸を開けた。外からの月明かりに照らされて、先輩が結城に押し倒されてキスされている姿が浮かび上がる。上半身を半分剥かれた先輩はゆっくりと結城の首に両腕を回していった。ほんとはそんな姿見たくはないのだけれど、結城が言うとおり先輩は男のくせにめちゃくちゃ綺麗で、オレは嫌悪感も混じった変な興奮を覚えていた。
 深く合わされた唇が離れるまで、山崎のときの倍以上は時間がかかったと思う。これも山崎が言う「相性が悪い」というヤツで、けっしてキスの時間を引き延ばしていたのじゃないのだろう。ぐったりした結城が先輩を押しつぶしたから、すかさず山崎が結城の襟首を掴んでひっくり返した。先輩がむせるような咳をしてまるで吐き出すように血色のルビーを床に落とす。それを山崎が拾い上げていた。
「あー、気持ち悪ィ。変態ホモ教師の相手なんざ金輪際ごめんだね」
「38月目。被害者1人。でもものすごく色っぽかったよ。ヨシユキってそっち系の才能あるんじゃない?」
「この次はぜーったいヒフミに男装させる!」
「だったら事前によく調べてよ。男装でも何でもしてあげるから」
 オレはさっきの衝撃がまだ抜けなくて、教室の入口で呆然と座り込んでいた。上半身を起こした山崎先輩はシャツのボタンがぜんぶはずされていて、しみ1つないどころかほくろ1つない白い肌があらわになっている。見ながらまた変な想像をしそうになってあわてて首を振って追い出した。そんなオレを見て先輩が意地悪そうにくすりと笑った。
「ごめんごめん。子供に見せていいものじゃなかったな。謝るよ、羽佐間君」
「……先輩、この間とずいぶん印象が違いますね。山崎もですけど」
「満月期だからね。僕もヒフミも月の影響を受けやすい体質なんだ。ほら、普通の人も多かれ少なかれ月の影響は受けているだろう?」
 そういえば聞いたことがある。人間の身体は約70パーセントが水分だから、潮の満ち干きに影響を受けるのはあたりまえなんだって。