満月のルビー26
 ようやく山崎が足を止める頃には、オレはほとんど山崎に抱えられて走っていたような状態だった。呼吸を整えながら見ると、そこはオレたちが通っている学園の正門だ。既に時刻は真夜中に近い。今の時刻じゃオレや山崎のIDカードでは中へ入ることはできないだろう。
「これ、使って」
 山崎はポケットから見慣れないカードを2枚取り出して、1枚をオレに渡してくれた。
「なに?」
「ゴーストカード。門は開くんだけど、記録は一切残らない。ヨシユキが隙を見てあたしたちの分も作ってくれたの」
 そういえば山崎先輩は電算部だったっけ。先月殺されたのも電算部の先輩だった。深井先輩もこのカードを使って真夜中の学校に侵入したっていうのか? だけど顧問の結城に黙ってこんなもの作れるはずがない。
「だったら、山崎先輩が追ってる種って結城なのか?」
「そうじゃなかったらわざわざ結城先生のクラスに転校したりしないよ」
 そう言って山崎がカードを門に通すと、ほとんど音を立てずに門が開き始めた。門の向こうには駅の自動改札のような設備がある。オレも山崎に倣ってカードを通してみると、あっけないほど簡単にバーが倒れてオレを通してくれた。
「誤算だったのは、結城先生がホモだったってこと。おかげでヨシユキの手を煩わせなくちゃいけなくなって、こうして羽佐間君を連れてくることにもなったんだ。ヨシユキだと相性が悪くて種を取り出したあとあたしみたいに動けないから」
 つまり、どう考えればいいんだ? 深井先輩は結城とそういう関係にあって、殺された夜も結城と学校で逢引していたのか。で、今夜は山崎先輩が結城と校内にいる。結城がホモじゃなかったらこっちの種も山崎が回収する予定だったんだ。オレを連れてきたのは力を使い果たした先輩を担いで連れ出すためなのかもしれない。オレなんかよりも山崎の方がずっと力持ちな気がするけど。
 山崎は緊張感をたぎらせながら廊下を足早に歩いていく。オレはなんだか少しばかり気が重くなってきていた。電算室前の廊下に差し掛かったとき、山崎は唇に指を当てて足音を潜めた。まもなく、オレの耳に物音と、山崎先輩の切なげな声が聞こえてくる。
 中で起こっていることを想像して、オレはうしろ足で砂を引っ掛けながら逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。