満月のルビー25
 山崎が何歳なのか知らないけれど、高1だから普通は15か6だ。種を振りまく人間はその2歳下だから13か4、そいつがあの男とエンコーしたのが3年前だとして10歳か11歳。そんな子供がエンコーしながら身を立てるっていうのは、いったいどういう事態なんだ?
 話しながら山崎は倉庫街を抜けて、車のいない大通りを斜めに横切っていく。その前に立ちはだかったのは駐車場のフェンスだ。もたついたオレをいきなり抱えて飛び越えたから、オレはかなり驚いてしまった。女子高校生どころじゃない。人間の脚力とは思えなかった。
 オレはずいぶん混乱していたのだと思う。走り続けて息が切れてきたのもあるのだろう。知りたいことはたくさんあるのに、適切な質問を山崎に投げかけることができなかった。それを察したのか山崎が口を開く。
「もう、5年くらい前になると思う。あたしは自分でも知らないうちにあの子に種を植え付けてしまった。ずっと死んだと思ってたんだけど。2年前から急に同じ手口の通り魔犯罪が頻発し出したでしょう? まさかと思って調べて、それであの子が生きていることを知ったの」
 工場の3メートル近くある塀を乗り越える。もちろんオレを抱えてだ。頭はくらくらするし胸はむかつくしで散々だった。そんなオレの手を引いて山崎は走り続ける。まるでペースが変わってない。
「それから2年をかけてようやく殺人を犯す前の種に追いついた。これからあたしたちが同じペースで追い続けていけば、もう人が死ぬことはないんだ。そして、これから先何年かかるか判らないけど、いつかあたしはあの子のところへ辿りつく。もう2度と、誰に種を植え付けることもできないようにする」
 さっき、倒れた男を見下ろしていた山崎に感じた決意。その正体はたぶんこれだったのだろう。悲壮感さえ漂う決意の中に、オレは山崎がその子を殺すことも視野に入れているのだと知った。
「そいつ、自分が殺人の種を振り撒いているって、知ってるのか?」
「あたしには判らない。あたしはあの子をずっと追ってきただけで、あの日以来1度も話してないから」
「だったら! そいつ、ただ生きるためにエンコーしてるだけなんだろ? 自分が何をしているのか判らない子供なんだろ? 見つけたら諭して、2度とエンコーなんかしないようにして、お前がその力で種を抜いてやれば、それで済む話なんじゃないのか?」
「それで済むのならそうするよ。あたしだって、あの子をどうこうしたいなんて、そもそも最初から思ってないから」