満月のルビー24
 倉庫を出る前に、山崎は男の財布から万札を数枚抜き取った。中身がいくらか減っている方が男は安心するという。それはオレもそうかもしれないと思った。以前山崎が「やってることは同じだ」と言っていたのにはこういう意味もあったのだろう。
「山崎、オレ、おまえにいろいろ訊きたいことがある」
 山崎は無関心そうな仕草でオレを見上げた。その表情は今の服装には似合っていると思うけど、これまで感じてきた山崎とはどうしても一致しない。まるっきりの別人を相手にしているようで、オレはかなり戸惑っていた。
「移動しながら話すよ。あんまりヨシユキを待たせられないから」
「ヨシユキ?」
「あたしの兄だって言ってる人のこと。種との相性はあたしよりも悪いから、一刻も早く助けてあげたいんだ」
 一通り周囲を見回してから、山崎は倉庫を出た。オレもあとに続く。
「できるだけ最短距離を行くから、走ってついてきて。走りながら質問して」
 そう言うととたんに走り出したから、オレも遅れないようについていく。全力で走りながらの会話など無謀だと思ったけれど、息を切らせる前にとオレは訊きたいことを簡潔に言った。
「前にあいつと会ったことがあるって、どういうことだ? 山崎がここにきたのか?」
「こないよ。この街にきたのは今回が初めて」
 対する山崎は息さえ乱れていない。
「あの男が言ってたのは自分に種を植え付けた人のことだと思う。あたしの顔を見ると「前に会った」って言う人が多いの。だからたぶん、あたしに似てるんだと思う」
「お前が最初に蒔いた種、って、人なのか? 人間? お前に似た?」
「顔を見たことはないんだ。年はあたしよりも2歳下で、たぶんあいつみたいなのとエンコーしながら生きてるんだと思う。そうしなければ食べられないから」