満月のルビー22
 メモにあった場所は埠頭の倉庫だった。だいたい9時ごろに到着したオレは、鍵のかかっていない入口を通って中へと入っていく。体育館ほどの広さを持つ倉庫はがらんとしていて、ここが今は使われていないのだと知った。高い位置の窓からの月明かりを頼りにあちこち歩き回って、いくつか残っていた木箱を積み上げてオレが隠れられる場所を作った。
 それから長い時間を待ち続ける。目安の10時を過ぎる頃には先輩にかつがれたかもと不安になったけれど、それからさらに30分ほど経ったとき、外から話し声と足音が近づいてきて隠れたオレを緊張させた。
「 ―― ここ、入るわけ?」
「そう。なんか変?」
「だってここ倉庫だぜ。もしかして仲間がいてオヤジ狩りされたりする?」
「まさかあ、しないよそんなこと。ほら見て、誰もいないでしょ?」
 声の1つは山崎だった。いつもよりもずっと張りがあって明るい感じがする。山崎に続いて倉庫へ入ってきたのは30歳前後に見える男。周囲を警戒しながら入ってくるその様子はごく普通に見えるけれど、山崎の言葉を信じるなら3年前から体内に種を宿しているのだろう。
「ああ、誰もいないな。だけどベッドもないぜ。こんなところでいったいどうするつもりなんだよ」
「ホテルとか、もう飽きちゃってさ。だってどこもおんなじようなんだもん。だから今は変わったところでするのがマイブームなの。付き合ってくれるでしょう?」
「確かに。こんなのずっと続けてたらさぞかし飽きるだろうぜ。おまえ、前に1度オレとしたことあるだろ」
 前を歩いていた山崎は、振り返って少し大げさに首を傾げて見せた。
「そうだっけ? いつ頃のこと?」
「2年か……もっと前だったかな? さっき見てすぐに判ったぜ。まだ胸なんかペッタンコのくせにオレのこと誘ってたじゃん」
「やだぁ、そんなのいちいち覚えてる訳ないよ。そんなことよりさっさとすることしてお金ちょうだい」
 山崎は媚を売るように男の腕に手を絡ませる。オレはいつもよりも明るくて饒舌な山崎になんとなく腹が立った。