満月のルビー20
「山崎が不思議な力を持っていることと、その力のせいで以前種を蒔いてしまったこと。その種が増殖して宿主になった人間に殺人をさせていること。山崎が宿主の中から種を取り出していること、ですね」
 要点だけを簡単に答えると、先輩はオレに好意的な笑みを向けた。
「ヒフミが言ってた通りだ。羽佐間君は頭がいい」
「山崎は今何をしてるんですか?」
「宿主の行動範囲を調べてるよ。満月はもう明日だからね、タイミングよく接触できなければ人の命1つと1ヶ月の時間が無駄になる。種が活動している最中に接触しなければ取り出すこともできないから」
「そうですか」
 さらりとすごいことを言う人だ。全体的には優しそうな印象を振りまいているけれど、どこかに冷たい部分があるような気がした。そしてそれは、ほんの少し山崎にも共通する印象だ。
「ずいぶん簡単に信じるんだね。羽佐間君が僕やヒフミを疑わないのはどうして? こんな荒唐無稽な話、まずは疑うものだと思うけど」
「疑いました、最初は。だけど……山崎は、正直だと思ったから」
 オレの答えに先輩は首をかしげる仕草をしたから、オレは自分の言葉を補足した。
「山崎は、自己顕示欲がないですから。そういう人、オレは会うのが初めてだけど、人間て自己顕示欲がなければ不必要な嘘はつかないだろうな、って思ったんです。話してくれてないことはたぶん山ほどあるんだろうけど」
「そりゃあね、もちろんたくさんあるよ。……そうか。そういう羽佐間君だからヒフミは楽なんだね。ふだん人見知りの激しいあの子が羽佐間君にだけは懐いているようだから、いったいどんな人なんだろうと思ってたんだけど」
 実の兄から見たら、山崎がオレに懐いているように見えるのか。オレ自身は未だ山崎に心を許してもらえているとは思えないのに。
 それはもちろん、出会ってまだ1ヶ月も経っていないのだから、そう簡単に親しくなれるとは思ってない。だけど山崎となら、より親しくなるための努力を惜しみなく費やせるような気がしていたのだ。