満月のルビー21
「気づいてないようだから1つだけ言っておく。……今、手がけている2人の宿主が片付いたら、僕とヒフミはまた遠くへ行くよ」
 思いがけないことをとつぜん言われて、オレは固まってしまっていた。そうだ、山崎はここにはあと2人しか宿主がいないと言った。この兄妹がこの街にいる宿主を追って転校してきたのなら、また新たな宿主を求めて転校していってしまってもおかしくないんだ。
「どこへ行くんですか?」
「ヒフミが蒔いた1つの種を追って南から来たんだ。もうすぐ夏休みだから、少し広範囲を探してみるつもりでいる」
「北へ、ですか?」
「今までは通り魔殺人事件の痕跡を頼りに探していたのだけど、今回でようやく追いついたんだ。だからこれから先は目印がない。それでも探し続けていけば、いつかすべての始まりである1つの種に辿りつくことができるだろう。何年かかるか判らないけれど」
 オレが2人を追っていくとでも思っているのかもしれない。具体的なことは訊かれたくないように思えたから、オレもそれ以上は尋ねなかった。
 少しの沈黙があって、山崎先輩はポケットから手帳を取り出した。何かを書いたあと破いてオレに手渡す。
「明日の夜、たぶん10時くらいになると思う。この場所にヒフミが宿主を連れてくることになってるんだ。ヒフミのことが気になるなら来るといいよ。ただし、物陰からこっそり見ているだけ、事が済むまでヒフミの邪魔はしない、というのが条件だけど」
「……いいんですか?」
「うん。ヒフミにはちゃんと話しておくから。くるもこないも羽佐間君の自由だよ。……今ならまだ係わり合いにならずに済ませることもできる。だけど、来ちゃったときにはいろいろ覚悟してもらうことになるからね」
 先輩の言い方に少しだけ恐怖感をあおられた。だけど、この時点でオレはほぼ100パーセント、この場所へ行くことを決めていた。オレは既にここで何が起きるのかを知っているのだ。もう1度確かめずにはいられなかった。
 なにより、オレは山崎に会いたかったのだ。