満月のルビー19
 翌日、山崎は学校を休んだ。もちろんオレは心配だったのだけど、あのあと夜通し宿主を追っていたのなら睡眠不足で眠っているだけかもしれないと思って、特に詮索はしなかった。だけどさらに翌日も休んでくれて、しかもオレからのメールにも電話にもぜんぜん音沙汰がなかったものだから、オレはいてもたってもいられなくなってしまっていた。なにしろ敵は通り魔殺人犯なのだ。まかり間違って大怪我でもしているかもしれないじゃないか。
 帰りに1度アパートに立ち寄って、夕食後にもう1度訪ねてみた。どちらも不在だったのだけど、今日こそは諦めるつもりはなかったから、そのまま帰りを待つことにした。アパートの周辺を歩き回って、部屋の明かりがかろうじて見える場所に公園を見つけた。そこのベンチに腰掛けて、部屋の明かりがつくのを徹夜で待つつもりだった。
 そうして待ち続けて、真夜中を少し回った頃だった。声をかけられて振り返ると、そこには山崎先輩が立っていたのだ。
「羽佐間、っていったっけ。ヒフミと同じクラスの」
 先輩が言った名前は耳慣れなくて、オレは初めて自分が山崎のファーストネームを知らなかったことに気づいた。
 山崎と似た雰囲気を持つ先輩はうっすらと微笑んでいた。1度教室で見かけたときとは少し表情が違う。山崎に負けず劣らず白い肌が、満月に近い月明かりに怪しく光っている。もちろんオレの気のせいだ。
「先輩、山崎は元気なんですか? ……担任は風邪だって言ってたけど」
 それが真実じゃないことはオレにも判っていた。
「僕も一昨日から顔を合わせてないけど、たぶん元気だと思うよ。メールは届いてるから心配は要らない」
「帰ってきてないんですか?」
 先輩は無言で肯定する。心配じゃないのだろうか。山崎のためにわざわざ学校に帽子を持ってきた兄バカなのに。
「羽佐間君、ヒフミは話したんだろう? どこまで聞いた?」
 オレが座っていたベンチに腰掛けながら先輩が訊いてくる。オレも再びベンチに座って、身長の関係で少し見上げる形になった。先輩が言うのはもちろん例の種のことだ。おそらく、オレからきちんと話をしなければ、先輩からは何も話してくれないつもりなのだろう。