満月のルビー18
 どうして山崎1人でこんな危険なことをしなければならないんだろう。オレは何も協力できない。
「山崎先輩は? 先輩には山崎と同じ力はないのか?」
「……あるけど」
「だったら手伝ってくれないのか?」
「くれてるよ。もう1人の宿主を追ってて、今は根回ししてくれてる」
 ああ、そうか。山崎先輩が追ってるのは、校内で深井先輩を殺した宿主の方だ。オレはつい何も考えずに訊いてしまった。
「それって誰なんだ?」
「……羽佐間君は知らない方がいいと思う」
 山崎にしてみればそう答えるしかなかっただろう。オレだって、本気で宿主の名前を知りたいと思っていた訳じゃなかった。いくら満月の夜以外は普通の人間と変わらないからといって、自分の近くに殺人犯がいるのは気持ちのいいものじゃないだろう。
 そのときだった。ふと山崎が顔を上げて、正面の壁の一点を見つめたのだ。
「山崎?」
「……見つけた」
 山崎の緊張感が伝わってくる。少しの間宿主の気配を探っていたらしい山崎は、駆け出すと同時にオレに叫んでいた。
「ごめんなさい。ここからは1人で行動させて!」
「え? おい山崎!」
「ごめんなさい!」
 オレは山崎を追いかけて路地を飛び出したのだけど、通りに出る頃には既にオレのはるか先を走っていて、追いつくのは不可能だった。ふだん体育を見学している山崎のこんな姿を見たらクラスの連中はいったいなんて言うだろう。高校生の女の子の脚力じゃなかった。
 もしかしたら山崎は、この人並み外れた肉体能力を隠すために、体育の授業を見学しているのかもしれない。