満月のルビー17
 夜になると月を見上げるのが習慣になった。ケータイを持っていないオレは、夕食後にパソコンのメールをチェックする。山崎のケータイから送られてきた駅名を確認して返信したあとに家を出た。ケータイなんて息苦しいだけだと思っていたけど、山崎の犯人探しに付き合うようになってからは持っていないのが不便だと思うようになった。
 月齢12。満月の3日前。駅の繁華街でオレは夜に溶け込む山崎を探した。待ち合わせをしている訳じゃないけど、1度慣れてしまえば人込みを歩き回る山崎と遭遇するのはさほど難しくない。視界に彼女の姿を確認して、そのまま声をかけずにあとをつけていく。山崎がオレに気づくと細い路地に入ってオレがくるのを待っていてくれた。
「 ―― 月曜だから大丈夫だと思うけど、一応気をつけろよ。武井の最寄り駅だ」
「あたしは大丈夫。羽佐間君こそ気をつけて。……今日はたぶん、当たりだから」
「……近くにいるのか?」
 山崎は無言でうなずいた。通り魔犯がこの近くにいる。オレは気持ちが高ぶるのを感じた。
「オレでもひと目見て判るような特徴ってあるのか?」
「何もないの。……直後なら、アザみたいなものが残ってることもあるけど、3年も経ってるから」
 底知れない怖さがあると思う。あの赤い珠がどうやって人間の体内に入るのか、山崎はまだ説明してくれない。だけど、きっと宿主本人も気づかないうちに身体の中に入り込んで、少しずつ育って、3年後の満月の夜に身体を乗っ取られて殺人を犯すんだ。もしかしたら今このとき、オレの身体の中にも存在しているのかもしれない。我に返ったら目の前に惨殺死体があるというのはいったいどういう気持ちなんだろう。想像するのすら怖い気がする。
「今夜見つけられたらキスするのか?」
 オレの言葉に、山崎はさっと顔を赤らめてうつむいた。表現が少し過激だったかもしれない。
「……今日はしない。今のあたしの力では種が活動中じゃないと取り出せないから」
 種の活動中には、宿主は殺人状態にある。つまり山崎が次の犠牲者になる危険と紙一重だってことだ。