満月のルビー16
 だけどオレの想像力にも限界がある。この時点でもう山崎の話についていけなくなってたんだ。
「種は植え付けられた人間の中で育って、37回目の満月を迎えたとき、宿主の人間を完全に乗っ取って人を殺す。そのあとも満月を迎えるたびに種は人を殺し続ける。だけど、宿主の人間は種に乗っ取られている間の記憶がないから、自分が殺人犯だなんて夢にも思ってない。……ね、ぜんぶあたしが悪いでしょう? だから、通り魔犯を警察に教えたりできないんだよ」
 それきり言葉を切った山崎に適切なコメントを言えるようになるまで少し時間がかかった。
「……ええっと、つまり、満月の夜の通り魔はその種を植え付けられた人間だってこと? その、山崎が最初に蒔いた種が分裂して」
「そう、かな。分裂だとちょっとニュアンスが違うけど」
「細かいところは諦めようぜお互い。……で、お前は種の宿主を見つけてどうするんだ? 殺すのか?」
 そのとき山崎はついと立ち上がって、押入れの中から菓子缶のようなものを取り出してきた。ふたをあけてオレに見せてくれる。その中には、ルビーよりも少し赤みの強い珠がきれいに整理されて並べられていたんだ。
 初めて出会ったときのことを思い出した。あの時、山崎とキスしていた男が倒れたあと、彼女は自分の口の中から飴玉のようなものを取り出した。まるで血のような色をした赤い珠。既に20個以上もあるこのうちの1つは、たぶんあのときの珠だ。
「これが種。宿主の中にいなければ、それ以上人間に影響を与えないの。これさえ取り出しちゃえば宿主は普通の生活に戻れるから」
 なるほど、確かに警察の出る幕じゃないか。むしろ下手に捕まっちまった方が宿主も警察も不幸だ。山崎が宿主から早急に種を取り出すのが1番いい。
 あのときのあのキスは、彼女が宿主の体内から種を取り出すための儀式だったという訳か。もちろん好きでしているのじゃないのだろう。
「……エンコーなんて言って悪かった」
 ボソッと謝ると、山崎は顔を上げて、笑顔で首を振った。ドキッと心臓が跳ねて、オレは久しぶりに山崎を綺麗だと思った。
「やってることは同じだし、悪いのはあたしだから。羽佐間君はひとかけらも悪くないよ」
 山崎にはまだまだ謎が多いけれど、これからもずっとそばにいたいと思った。