満月のルビー15
「……今は、ちょっと怪しいかも。まだ力が充実してないから」
 山崎の言う力が一種の超能力のようなものなのだと、オレは自分なりに解釈した。山崎は人ごみの気配を探ることで通り魔犯を探し出せるのだという。その真偽は判らなかったけれど、この数日でオレの中からはもう、山崎のことを疑う気持ちがすっかり失せていた。
「でも、あと何日かしたらはっきり判るんだ。この近くにもう1人いるのは間違いないから」
「もう1人ってどういうことだ? あの通り魔犯って複数犯なのか?」
「うん、複数っていうか。……このあたりには4人いたの。2人はいなくなって、もう1人は判ってる。だから、残ってるのはあと1人」
「それじゃ、深井先輩を殺したのが誰なのかも山崎には判ってるのか?」
 これは半分カマをかけたのだ。だけどそれに気づいたのかそうでなかったのか、山崎は黙ってうなずいていた。
「判ってるならどうして警察に言わないんだよ。だって、校内の人間なんだろ? こんな危ないマネまでして、下手したらお前が被害者になるかもじゃんか」
「証拠、ないし。……それに、自分が蒔いた種だから」
「それが判らない。どうして山崎が蒔いた種が通り魔になるんだよ」
「……場所、変えて話そう。ちょっと疲れた」
 そう提案した山崎に導かれて、オレは再び山崎のアパートへ行った。このとき既に夜の10時を回っていたのだけど、なぜか山崎先輩は帰っていなかった。
「 ―― 昔、まだあたしが自分のことについてなにも知らなかった頃、自分でも気づかないうちにひとつの種を蒔いたの」
 山崎は内気で、そのぶん口下手だった。オレはせっかく話し始めてくれた山崎の言葉をさえぎらないように、判らないところは想像で補うことにする。おそらく、昔の山崎が知らなかった自分のことというのは、今犯人探しに使っている超能力のことだろう。
「あたしが蒔いた1つの種は月に1度、1つの種を1人の人間に植え付けて増えていった。月に1度、満月の夜に。あたしはそのことにずっと気がつかなかった。それに気づいたとき、最初の種を蒔いてから既に3年が経っていたの」