満月のルビー14
「べつに。ただ歩いてるだけ。ここでは誰もオレを見ないから」
 自分が果たしてどういう場所に立っているのか、オレは知りたかった。限られた人と関わるだけでは自分の位置が見定められない。隅から隅まで歩かなければ自分が存在する場所の広さが判らない。だからオレは、自分が存在しない場所を歩きたくて繁華街をうろついていた。
「……でも、羽佐間君はあたしに声をかけたよ」
 そう、山崎に言われて、オレは初めて気づいた。もしかしたらオレは山崎に会いたくてずっとここにきていたんじゃないかって。
「いくらなんだ?」
 山崎は意味が判らないというように上目遣いで首をかしげた。
「お前の値段。いくら出したらお前とエンコーできるんだ?」
 反応の予想はまったくつかなかった。いや、自分の中ではいろいろなパターンを想像していたのだと思う。山崎は表面的にはまったく驚いたようには見えなかった。再び目を伏せて、小さく言う。
「……お金なんか、要らない。ただ、知りたいだけだから。……あたしがどこにいればいいのか。どこなら許されるのか」
 たぶん、山崎がここにいる理由も、オレと同じなのだ。本当は同じじゃないのかもしれないけれど、このときのオレは自分が山崎に惹かれている事実とその理由を理解した気がしていた。
 山崎がいることを日常にしてしまいたかったのかもしれない。この日から、オレは山崎の犯人探しについて回ることを日課にした。たぶん山崎はエンコーなんかしてない。自然とそう思えたことが自分でも不思議だった。あんなに熱烈なキスシーンを目撃していたというのに。
 人ごみに何かを求めるように目を凝らして、山崎は歩いていく。ときどきケータイの着信をチェックしている。なぜかと聞いたら兄からの連絡を待っているのだと答えた。オレは山崎から少し離れた位置をキープしながらついていく。たまにメールを打っているのは山崎先輩に連絡を入れているのだろう。
「顔を見ただけで犯人かどうか判るのか?」
 人気のない路地で立ち止まって小休止したとき、オレは山崎に訊いてみた。