満月のルビー13
 ずっと気づかなかったのだけど、オレにとって「山崎がいる」ということ自体が非日常だったらしい。クラスの連中はすでに山崎を1人のクラスメイトとして受け入れていたのだけど、オレ自身はいつまで経っても「山崎がいる」という事実を日常として受け入れることができずにいた。授業が終わると、知らない間にオレは山崎の気配を探している。山崎の姿を盗み見て、クラスメイトと交わされる会話の声を聴いている。
 たぶんオレはできるだけ早く自分自身の日常を取り戻したかったのだろう。オレの中にある非日常と日常とのバランスを取ろうとしていたのかもしれない。部活に入ってないオレは放課後家に帰るとすぐに勉強を始めた。そして、夕食後には必死になって繁華街をうろついた。
 落ち着かない。いつもと同じ行動をとっているのに、ふと気がつくと考えているのは山崎のことだけだった。
 誰が誰に殺されようが、クラスメイトがエンコーしようが、ずっとオレには関わりないことだと思ってきたはずだったのに。
 オレと山崎との関係は、初めて会話を交わしたあのときの前とあととで特に変わるということはなかった。教室では内気でおとなしい純情高校生を演じている山崎はそれゆえオレに話しかけてくるようなことはなかったし、オレの方から話しかけるようなこともしなかった。その日、最近毎日のように違う駅の繁華街へ出かけていたオレは、みたびあの山崎と遭遇した。どうやら山崎はオレの忠告を覚えていて、1年生を受け持つ教師の担当区は避けてエンコーしているようだった。
「 ―― 今日はどっちなんだ?」
「……どっち?」
「エンコーと犯人探し」
「……犯人探しの方」
 ひと目オレを認めたあとはずっと目を伏せている。特にオレを苦手だからという訳じゃないんだろう。クラスでも山崎はいつもうつむいていた。
「……羽佐間君は? いつもここで何してるの?」
 答えには少しだけ迷ったけれど、山崎にそれを話すこと自体にはまったく迷わなかった自分が不思議だった。