満月のルビー12
 オレ自身、こんな話を山崎にするとは思っていなかった。蓬田にだってしなかった話だ。
「かまわねえよ。山崎が好きなようにすればいい。ただ、教師の担当区だけは把握しておいた方がいいぜ。退学になりたくはないだろ?」
 オレがそう言ったあと、山崎は初めて笑顔を見せた。はにかんだような、いつも教室で見せている笑顔。化粧した顔には不釣合いだった。
「今日のは、エンコーじゃないんだ。……人を、探してたの」
 今日のは、ってことは、その前のはエンコーだったのか。それとも違ったのか。オレには判断がつかなかった。
「人? いったい誰を?」
「うん。……通り魔殺人の、犯人」
「はあ?」
 思わず大声を出しちまっていた。山崎が通り魔殺人犯を探してるっていうのか? そんな、なんていうか、ある意味めちゃくちゃばかばかしいこと、信じる気にもなれなかった。
「なんでそんなこと! 関係ねーだろ山崎には!」
「関係、なくもないから。……ていうか、あれって、あたしが原因だから」
「バカなこと言うなよ! お前が原因で通り魔殺人なんか起きるか普通! ぜってー勘違いだ。ありえねえよそんなこと」
 そのとき、外の廊下を歩いてくる足音を聞いた気がした。会話を中断して聞き耳を立てているとまもなく玄関のドアが開いて山崎先輩が顔を出す。オレの姿を見て、先輩も少し驚いたようだった。
「あ、えーと、いらっしゃい」
「あの……はい、お邪魔してます」
 そんな中途半端な会話を交わしたあと、先輩が山崎に「誰?」と尋ねて、山崎が「クラスの羽佐間君」と答えたところまでを見守った。山崎先輩は兄バカだ。こんな時間に妹と2人きりで部屋にいたオレにけっしていい感情は抱かないだろう。
 まるで逃げるように、オレは山崎の家をあとにしていた。なにを焦っているのか自分でもよく判らなかった。