満月のルビー11
 送っていくとのオレの言葉に、うなずいた山崎は先に立って歩いていった。駅からほんの10分ほど歩いてひとつのアパートの前で足を止める。両親は海外赴任らしいから、おそらくこのアパートに山崎先輩と2人きりで住んでいるのだろう。
 外階段を上がって、玄関のドアの前まで送り届けた。そのあとどうするべきか迷っていると、鍵を開けた山崎が視線と手招きとでオレを部屋の中へ入れてくれた。そのワンルームは異様なほど閑散とした、ほんとうに何もない部屋だった。
 冷蔵庫からウーロン茶を用意している間も、山崎はずっと無言のままだった。小さな折りたたみテーブルを用意してグラスを置いたとき、ようやく山崎は口を開いた。
「羽佐間君、だよね。同じクラスの」
 山崎は教室にいるときの雰囲気に戻っていた。オレは満月の彼女が山崎だということを疑ってはいなかったけれど、ここへきて初めて「やっぱり同一人物だったのか」と思った。納得したような、ちょっと意外だったような、がっかりしたような、複雑な気分だった。
「オレの名前、覚えてくれてたんだ。1度も話したことないのに」
「前に1度見られてたし。……結城先生によく当てられてたから」
 そう言ったきり、再び沈黙が包む。オレは余計なことは何も言わなかった。とにかく山崎の出方を見る方が先だと思ったから。オレが待っていた反応は、しばらくの沈黙のあとにもたらされた。
「……誰にも、言わないでくれる?」
 その反応はオレが予想していた範囲のもので、いくぶんほっとしたと同時に少しだけ失望した。
「やっぱ、エンコーなんだ」
 真っ赤な唇を噛み締める。そうしてうなだれた山崎はさらに小さく見えた。
「……羽佐間君だって、真夜中に出歩いてたよ。あんなに勉強できるのにどうして」
「それ、逆。自由にしていたいから成績を免罪符にしてるだけ。勉強さえできれば親もセンコーも何も言わないから」
 山崎はちょっと驚いたように顔を上げた。