満月のルビー7
 それから数日、オレはいつ山崎に声をかけられるかと半分びくびくしながら過ごしていたのだけど、残りの半分はどうにでもなれと諦めた気分でいた。あの夜にオレが見たものは、今の山崎にはたぶん見られたくなかったものだ。どちらの山崎が本当の山崎なのかは判らないけれど、繁華街でエンコーしてたなんて噂が流れただけでも、有名私立進学校を気取ったうちの学校じゃ十分退学の理由になる。おとなしい優等生を装っている山崎なら、オレがいつ口を割るか気が気じゃないはずだった。
 教室で初めて目が合ったあの日の朝、確かに山崎は気がついてた。オレがあの夜の山崎を見ていた高校生だ、って。
 だけどその日以降オレと山崎とは同じクラスにいながら何の接点もないままで、オレ自身もあの日のことを半ば忘れかけていた。
 山崎が転校してきてから1週間あまり経った頃、オレが遅刻ぎりぎりで公道を走っていると、校門の前になにやら人だかりができていた。近づいていくとそれはテレビカメラやら中継車やらでちょっと驚く。どうやらうちの学校で何かあったらしいな。とにかく人ごみを掻き分けてIDカードを通し、どうにか時間内に教室へと滑り込むと、教室の中もかなり騒然としていた。
「蓬田、何かあったのか?」
 いつものダチに声をかける。オレの声がけっこうのんびりしていたせいだろう、蓬田は少し怒った風に答え始めた。
「お前今朝のニュース見なかったのか? 電算部の深井先輩が死体で見つかったんだよ」
 言われた言葉を理解するのに少しかかった。そういえば誰かがそんなことを言ってなかったか? 電算部の3年が行方不明になってるとか。
「……死んでたんだ。で?」
「で?って。相変わらずノンキな奴だな。旧校舎脇のプレハブ倉庫で殺されてたんだんだとよ。死後10日くらい経ってるから、行方不明になった直後に殺されたんじゃないかって。だから今日は全校集会のあとは授業なしだ」
「へえ、ラッキーじゃん」
「あのなあ! この夏のさなか10日も放置されてたんだぞ! 昨日偶然演劇部が倉庫に入らなかったら発見はもっと遅かったかもって。オレたち10日も死体と同じ敷地で授業受けてたんだぜ! 普通ショックだろうが。ラッキーってなんだラッキーって!」