満月のルビー6
 なんで2メートルのフェンスを軽々飛び越えるヤツが体育を見学するんだ? とは思ったけど、賢明なオレはそれを口に出したりはしなかった。
「判る判る! 山崎さん、いかにも深窓の令嬢、って感じだもんね。色白でほんとうらやましいよ」
「そんな、あたしなんかトロくて何にもできなくて。水谷さんの方がずっといいよ」
 こういう科白を美人で成績のいい奴が言うと嫌味にしか聞こえないもんだが、周りの連中はずいぶん好意的に受け取ったようだ。このあたり、やっぱり山崎がほかの人間とどこか違うってことなんだろう。ほとんど周りの質問に答えるだけだった山崎は、ひとつだけ自分から質問していた。
「結城先生ってどんな人?」
「ああ、山崎さん、今日は目の敵にされてたもんね。あいつはさ、見てのとおりだよ。成績がいい奴とそうでもない奴とで態度がぜんぜん違うの。だから結城をもじってヒイキなんてあだ名がついてる。教室ではめったに笑わないしね。顔だけはいいんだけど」
「もしかして山崎さんの好みってああいうタイプ?」
「え? ううん、それは……。担任の先生だから」
「んもう、赤くなっちゃってほんとかわいいんだから! ほっぺにチューしたくなっちゃう!」
「やめてマチ! 共学なんだからレズに走らないでよ! 山崎さん困ってるじゃない」
「レズっていえばヒイキってホモの噂あるよねー」
「そうそう。電算部の部室で放課後部員の男子生徒相手にいかがわしい行為に走ってるとか」
「ねえ知ってる? 電算部の3年男子が1人行方不明になってるの。一昨日の夜からだって」
「なにそれ」
「うん、未確認なんだけどね。うちのお姉ちゃんのクラス、昨日のホームルームで心当たりがないか訊かれたって言ってたから ―― 」
 このとき話題が山崎の質問からすっかりそれてしまってたけど、彼女は真剣な表情で聞き耳を立てていて、オレは少しだけ気になった。