満月のルビー5
 またずいぶんあの夜と印象が違う。いったいどちらが本当の彼女なのだろう。今の彼女を見ていて、真夜中に大人の男とあんなに熱烈なキスをしていようとは夢にも思えない。だけど、ほかのクラスメイトとも一線引いたような美貌をもつ女が、オレの目の前に同時に2人も現れたとはどうしたって考えられなかった。
「でもほんと、山崎さんて美人だよねえ。日本人離れしてる感じ。もしかしてハーフかクォーター?」
「そんなこと……。両親とも日本人だし、ぜんぜん……」
「うそぉ、ぜったいどこかの血が混じってるよ。ヨーロッパとか ―― 」
 そのとき担任の結城が入ってきて、それ以上美少女の話を聞くことはできなかった。
 結城は20代後半くらいの男性教師だ。なかなか厳しくて無表情、しかも成績で思いっきり生徒を差別する。余計な詮索はしてこないし、学年上位をキープしていればうるさく言われないからオレとしては気に入ってる。案の定、結城はオレの顔をチラッと見はしたけれど、昨日の無断欠席を咎めたりはしなかった。
 1時間目はたまたま結城の数学で、朝のホームルームが終わるとすぐに授業になだれ込んだ。昨日学校をサボったオレと転校生の山崎は意地悪な結城に何度か当てられたけど、オレはともかくとして山崎も多少口ごもりながらもきちんと答えていたから驚きだ。まあ、よく考えればとうぜんかもしれない。うちの高校は2年からは選択別のクラス分けになるけど、1年のうちは純粋な成績順でクラスが決まるから、1組に編入されてきた山崎の成績がいいのは当たり前のことだった。
 1時間目が終わるとさっそく山崎の周りに人垣ができる。そのやり取りはずっとオレの耳に届いていたから、この日が終わるまでにオレはかなり山崎のことを知ることができた。
「 ―― へえ、ご両親が海外出張なんだ。それで今はお兄さんと2人暮らしなのね。クラブ活動は?」
「ずっと前は生徒会に入ってたけど、今は早く帰って家のことをやらなくちゃだから」
「次、体育なんだけど体操着もってきた?」
「ごめんなさい、あたし、子供の頃から身体が弱くて。体育はぜんぶ見学なの」