満月のルビー4
(なん、で……)
 オレは思考停止したまま彼女を見つめていた。急に落ち着きをなくしたクラスメイトに囲まれた彼女は少し照れたような笑みを浮かべていたけれど、不意にオレの方を振り返って少しだけ驚いた様子を見せた。気づかれた。一気に心拍数を跳ね上げたオレが感じたのは、あのときの口封じのために彼女に殺されるんじゃないかという恐怖だった。
 見つめたまま視線をそらすことすらできなかったオレに、やがて彼女ははにかんだような微笑を向ける。その表情はあの夜の彼女とはまるで別人のように見えた。
「わあ、こっち見て笑ったぜ、山崎さん。……まさかオレに気がある?」
「……ばーか、んな訳あるかよ」
「だよな、やっぱ。んでも羽佐間言い過ぎ」
 緊張感のない蓬田の科白にいくぶん救われた気がした。再び見ると彼女は教室を横切って1番うしろの席に着き、その周りを好奇心旺盛なクラスメイトたちに囲まれているところだった。
 蓬田も彼女に気をとられているらしく話しかけてこなかったから、オレも横目で見ながら2つ隣の席の彼女に神経を集中させていた。
「 ―― 山崎さん、転校2日目で道に迷ったりしなかった? ほら、うちの校内ってけっこう複雑じゃない?」
「うん、大丈夫。昨日きたときに覚えたし、それに今日は兄が一緒だったし」
「え? 山崎さんのお兄さんもうちの高校なの?」
「あたし見た! すっごくかっこいい人だよねー! 美人の山崎さんによく似てるの」
「ええ? 山崎さん似の美人なの? ねえ、何年何組?」
「あ、あの……。2年1組で……」
「理数系の進学クラスじゃん! 頭いいんだぁ。今度ぜひ紹介してよ!」
 周りの勢いに押されてか、彼女は顔を赤くしてうつむきながら口ごもっている。もしかしたら多少内気なタイプなのかもしれない。