満月のルビー3
 1年1組の教室に入ったとき、何気に違和感を感じて足を止めた。ひと通り教室を見回したけれど特にいつもと違ったところはない。しいて言えば、入口に向けられたクラスメイトの視線がいつもの朝よりも多いように感じられたくらいだ。その視線もすぐにそらされたから、オレは気のせいだったことにして1番うしろの自分の席についた。
 クラスでは比較的仲がいい蓬田はいつも遅刻ぎりぎりに飛び込んでくるのに、今日はなぜかすでに登校していた。
「羽佐間、昨日はどうしたんだよ。風邪か?」
「ああ。……まあな」
 蓬田とはいちおう親友といっておかしくない程度の付き合いだけど、昨日欠席した理由を正直に話すのはためらわれた。あいまいにごまかして返事をする。そんなオレの様子を蓬田がいぶかしんだ気配もなく、すぐに別の話題を振ってきた。
「休んでたお前は知らないだろうけどな、昨日はすごかったんだぜ、うちのクラス」
「すごいって、何が?」
「転校生がきたんだ。オレ、転校生って初めてでさ、かなり興奮したよ。たぶんクラスのほとんどのやつらが初体験だぜ、転校生の自己紹介ってヤツ。しかも聞いて驚け、相手は超がつく美少女だ!」
「ふうん」
 オレはずいぶん無関心そうに蓬田を見上げたのだろう。実際オレは上の空だった。確かに転校生はオレも初体験だったけれど、そんなことよりオレの関心は2日前の夜の出来事に飛んでしまっていたから。
「そんな気のない返事するなよ! お前だってひと目見たらぜったい驚くって。オレ、昨日は興奮して眠れなかったもんなぁ。ああ、早く登校してこないかな、山崎さん」
 どうやらそれが転校生の名前らしい。なるほど、教室入口での視線の意味が判ったぜ。みんな山崎さんとやらが登校してくるのを待ってるって訳だ。どんな美少女かは知らないが、それほどの美少女が蓬田なんかの彼女になってくれるはずもないのに。
 だが、しばらくして登校してきた1人の女子にオレの視線は釘付けになった。なぜなら彼女はまぎれもなくあの満月の夜の女だったから。