真・祈りの巫女306
 自分にまったく覚えがないことを話す周りの人たち。もしもそれが1人なら、単なる勘違いで済んだだろう。だけど、まわり中の人たちがまったく同じことを言ってたのだとしたら……。怖いだろう。まるで、自分の方がおかしくなってしまったみたいに思えて。
「オレとユーナはそのときまだ別々の町にいて、お互いのことを知らなかった。だけど思ったことは同じだったんだ。この不可解な現象が起こった原因を探す旅に出よう、って。そこでオレたちはエキ ―― 旅人が多く集まる場所へ行って、偶然出会って、自分たちが12年前に同じ町で過ごしていた幼馴染だったことを知ったんだ。オレたちはお互いのことを話し合って、2人で旅をすることに決めた。
 不思議な現象は旅を続けている間もずっと続いていた。あてもなくさまよっていると、誰かが進む道を教えてくれる。そして、教えてくれた誰かは近いうちに必ず非業の死を遂げる。最初はそのことが判らなくて何人もの人間を死なせちまったんだ。だけど戻ることは許されない。 ―― 旅を続けるうちに何人かの人間と出会った。その人間 ―― 仮に伝承者と呼ぼうか ―― は、オレたちに同じ話を聞かせるために存在するのだと言っていた。何100年も前からその時を待っていて、先祖代々その話を受け継いできたんだ、って」
 話している間に、シュウの顔がどんどん苦痛に歪んでいった。きっと犠牲になった人たちのことを思い出して、自分たちに理不尽な運命を与えた誰かに対する怒りが満ちてきているんだ。シュウも探求の巫女も、ここへ来るまでは平坦じゃなかった。のんきに2人旅を楽しんでた訳じゃないんだ。
 リョウを見ると、目を閉じて腕を組んだままシュウの話を聞いていて、表情を推し量ることはできなかった。
「オレたちは伝承者たちに切れ切れの情報を与えられた。探求の巫女は自らの行く道を追い求める巫女で、左右の力を統べる。左の騎士は探求の巫女を守る頭の騎士で、左の力のみを継承する。オレたちは伝承者たちに力を分け与えられたんだ。だけど、何のためにその力が必要なのか、そもそもオレたちがどうして旅をしなければならないのかは伝承者たちも判らなかった。
 やがてオレたちは、最後に出会った伝承者リオナに導かれて、次元の門をくぐった。で、出てきたところがこの村の神殿だったんだ」
 シュウはそこで息をついた。シュウの話には情報量があまりに多すぎて、誰も一言も話すことができなくなっていたの。これでもシュウはいろいろなところを省略しているのだろう。トツカと出会ったこともその1つなんだ。
 先に聞き出しておいてよかった。もしもあたしが聞いていなかったら、シュウはきっとここでトツカのことを話し出しただろうから。