真・祈りの巫女305
 守護の巫女の開始の言葉でやや緊張した空気が、シュウが左の騎士と名乗っていると言われたことでまた少しざわめき始めた。みんな、探求の巫女の名前は昨日聞いていたけど、左の騎士の話は今が初めてだったから。
「静かにして。今日は議題が多いから手早く進めたいわ。昨日は遅かったからまだ2人ともこの村についてなにも知らないでしょう? まずはそれをこの2人に簡単に説明するわね」
 そう言って、守護の巫女は探求の巫女とシュウに、この村の神殿の制度について説明した。そのあと名前のついた巫女の紹介と、その役割についての説明があって、あたしも名前を呼ばれて2人に挨拶する。この巫女と神官だけの会議になぜ狩人のリョウがいるのかについての説明はなかった。でも、2人がそれについて疑問を持つことはなかったみたいで、あたしは心の中でほっとしていたの。
 シュウが守護の巫女にいくつかの質問をして、守護の巫女がそれに答えたあと、今度は2人が自分たちの説明をする番になった。
「ユーナはこういう席での会話に向いていないから、代わりにオレがぜんぶ話させてもらう。それでかまわないか?」
 シュウの話はそんな風に始まっていた。守護の巫女が了承すると、シュウは話を続けた。
「オレたちは別の世界から来たんだ。たぶんそれを1から説明しても理解するのにかなり時間がかかると思うから、ここからずっと西へ向かって、海を越えて更に向こうにある島国から来たとでも思っててくれればいい。その国はこの村や周辺の国よりも文明が進んでるんだ。オレとユーナはその国に住んでいる平凡なガクセイだった。……ガクセイは判らないんだっけ?」
「留学生のようなもの? ごくまれにだけどこの村にも来ることがあるわ。ここ100年くらいはきていないけど」
「留学生が判るなら話は早いな。それとほとんど同じだけど、オレとユーナは自分の町にいて、それぞれのガッコウで勉強をして過ごしていたんだ。そのガッコウが1ヶ月前に夏の長い休みの期間に入ったんだけど、それと前後してオレとユーナには不思議な出来事が起こった。……オレたちの周りにいる人たちの記憶がおかしくなったんだ」
 意味が判らなかった。言葉を切ったシュウに、あたしたちは話の先を急かすような視線を向けた。
「オレの両親は、オレが夏休みに長期の旅をすると話したと言う。ユーナはガッコウの友達に旅のことを話していたらしい。だけどオレにもユーナにもそんな記憶はまったくなかったんだ。……まるでオレたちの知らないところでもう1人の自分が行動していたみたいに」