真・祈りの巫女295
「困ったわね。ベッドを貸してあげたいけど、ここは巫女宿舎だから基本的に男子禁制なのよ。奥の部屋にあたしの弟がいるけど、非常時でしかも怪我をしてるから特別に置いてもらってるだけだし」
 あたしの弟と聞いてシュウはちょっと不思議そうな顔をしたけれど、1人で納得したらしくて何度かうなずいた。
「たぶん今横になったらしばらく起きられそうにないからここでいいよ。午前中の会議にはオレも呼び出されてるしね。それが終わる頃になれば、さすがに他の神官たちも忙しくてオレどころじゃなくなるだろうからさ。神官宿舎でベッドを借りるよ」
「それでいいならかまわないけど。……あたしも訊くかもしれないわよ、空が青い理由」
「……頼む、それだけは勘弁して」
 シュウが脱力してパタンとテーブルに突っ伏す。その仕草と口調に笑いを誘われて、あたしが声を上げて笑い出すと、シュウもつられて笑った。……なんか、シュウってすごくいいよ。あたしは同じ年齢の男の人と親しく話す機会なんてなかったから、こんな雰囲気を知らないんだ。もしもあたしのシュウが生きていたらこんな感じだったのかもしれない。自然に話して、穏やかに笑いあって、まるで空気のようになんの意識もなく傍にいて ――
「 ―― 祈りの巫女、君は昨日もそんな目でオレを見ていたね。いったい何を考えてるの?」
 不意に声をかけられて見ると、シュウは穏やかでいて、でもまっすぐな視線であたしを見つめていた。
「なんだろう、なにかを懐かしんでる感じがする。……もしかして、オレのそっくりさんもこの村にいるの?」
「うん。……いた、って言った方がいいかもしれないわ。あたしの幼馴染のシュウは、5歳のときに死んでるの。あなたを見ているとシュウのことを思い出すんだ。もしも生きていたら、って。……ごめんなさい。あなたはあたしのシュウじゃないのに」
「謝らなくていいよ。オレはかまわないから。……そうか、辛いことを思い出させてたんだな。オレの方こそ謝らないと」
「ううん、シュウのことを思い出すのは辛くないの。まったく辛くないといえば嘘だけど、むしろ今ここにあなたがいて、あたしにシュウを思い出させてくれるのは嬉しい。永遠になれなかったはずの大人になったシュウと語り合ってるような気がするから」
 話しながら、あたしは胸に重苦しい小さな塊があるのを感じていたけれど、なぜかそれを心の中から追い出したいとは思わなかった。