真・祈りの巫女293
「旅の荷物は持っていないの? 着替えは?」
「持ってたんだけど、ここへ来るときに置いてきちゃったの。……気にしないで。あたしはこのまま過ごすから」
「そうはいかないわ。あたしの服を貸してあげる。でも、今夜は無理ね。カーヤが休む前に気づけばよかった」
「ありがとう。寒くないし、今夜は下着で寝るから大丈夫よ。……祈りの巫女に服を借りたりしたら、ますます見分けがつかなくなっちゃいそう。大丈夫かな」
「髪の長さもほとんど同じなのね。でも、あたしは髪飾りをつけているから大丈夫よ。これはめったなことでは外さないから」
 カーヤとオミを起こさないように小声で話しながら、あたしは灯りを持って探求の巫女をカーヤの部屋まで案内した。そういえば明日はオミにも紹介しなくちゃならないわね。きっとオミもびっくりするよ。
「それ、恋人からのプレゼントなの?」
 あたしが横になる前に髪飾りを外していたら、探求の巫女が服を脱ぎながら聞いてきた。
「うん、そう。あたしが15歳のときに、婚約のしるしに、ってくれたものなの。材料を手に入れるのがすごく大変だったのよ。北カザムの毛皮を使ってるんだけど、本当なら毛皮は神殿のもので狩人が自由にはできないの。だから、毛皮に傷がついて売り物にならない北カザムを狩らなきゃいけなかったんだけど、今まで何度もほかの狩人が挑んでそのたびに逃げてきた大きなオスだから、すごく大変だったんだって。……これはあとから他の人に聞いた話」
 話しながらカーヤのベッドに横になると、急に眠気が襲ってくる。あたし、今日はほんとに疲れてたんだ。
「祈りの巫女の恋人は狩人なんだ。……すごく愛されてるんだね。うらやましい」
「探求の巫女にはシュウがいるじゃない。きっとシュウだって負けないくらい愛してくれてるよ……」
「そんなことないよ。シュウは ―― 」
 けっきょくあたしが覚えていたのはそこまでだった。眠りに引き込まれながら判った気がしたの。きっとあたし、探求の巫女にリョウのことを自慢したかったんだ、って。あたしも探求の巫女とシュウのことをうらやましく思ってたんだ。