真・祈りの巫女292
 それからのシュウの話は不思議だった。シュウの村では、子供たちは6歳になった春から全員ガッコウというところに通うようになる。そこで文字を習って、いろいろな勉強をみんな一緒にするんだって。その話の途中にカーヤとタキが帰ってきたから、あたしはカーヤにあたしの部屋に寝るように言って先に休んでもらったの。カーヤは少し渋ってたけど、どっちみち食卓の椅子は4脚しかなかったし、食器の片付けは明日カーヤにお願いすることでようやく納得してもらったんだ。
 食事をしながらもシュウの話は続いていた。タキも会話に加わって、あたしとタキは何の遠慮もしないで代わる代わるシュウに質問を浴びせていたの。
「 ―― 神官や巫女になるならともかく、村で畑を耕したり狩りをしたりするのに文字を覚える必要はないだろ?」
「勉強をするのには必要だよ。あと、文字がなければ生活もできない。店の看板やネフダも読めないし、計算ができなければ物を売ることも買うこともできない」
「ああ、そうか。シュウの村には通貨があるんだな。だけど通貨がある村でも文字を知ってる人はあまりいないよ。看板はたいてい絵で書いてあるし、物の値段は店主に訊けばその場で判る。だいたいどうしてガッコウなんてものがあるんだ? ガッコウがなければ文字は要らないじゃないか。村の歴史を勉強したって畑仕事の役には立たないだろ?」
 あたしはタキの言葉が不思議でならなかった。だって、タキは畑仕事をするのが嫌で神官になったんだって、あたし前に聞いたことがあるんだもん。もしもシュウの村のようなガッコウがあったら、タキは神官になるよりずっと幼い頃からいろいろな勉強ができたんだ。それなのにシュウの村の制度に反対するような立場でいるなんて。 ―― ちょっと考えて判った。タキはシュウがうらやましかったんだ、って。
 だんだん話が複雑になって、あたしは会話に入れなくなっていった。食事が終わってからも2人の会話は途切れなかったから、さすがにあたしも疲れていたし、適当なところで2人を宿舎から追い出したの。宿舎の中が静かになって、探求の巫女と2人きりになると、なんだかさっきの気恥ずかしさが戻ってくる。お互い照れたように見つめあってしまって、探求の巫女もあたしと同じように感じているんだってことが判ったんだ。
 探求の巫女はもう1人のあたしだ。何の根拠もなかったけど、あたしは自然にそのことを感じていた。