真・祈りの巫女287
 探求の巫女とシュウが2人だけで相談していたのはそれほど長い時間ではなかった。それでも、この2人が多少の心配事を解消するためには十分だったみたい。かなりあとになってから判ったのだけど、このとき2人は自分自身がそれほど不安に思ってた訳じゃなかったんだ。2人きりで話したかったのは、相手が不安に思っていたら解消してあげなくちゃいけないって、そう互いに思ってたからだったの。
 だから神殿の扉から出てきた2人はすごくあっさりとしていて、まずはあたしとタキを見つけて近づいてくる。短い時間だったとはいってもその頃には広場の神官や巫女たちの多くは宿舎へ戻ってしまってたから、実際に2人の姿を見た人はほとんどいなかっただろう。
「祈りの巫女、時間を取らせて済まなかった。早速で悪いんだけど案内してくれるかな」
「ごめんなさい、お世話になります」
 探求の巫女はまだ少し緊張しているみたいで、ちょっとかしこまった口調でそう言った。あたしは、自分にそっくりな人があたしに対してまるで神様に対するような言葉を使うのが不思議な気がして、思わず笑みがこぼれていた。
「お話は終わったのね。……それじゃ、まずは探求の巫女から案内するわ。シュウ、タキ、悪いけど付き合ってね」
 そうしてあたしたちが石段を降りると、下で待っていた守護の巫女が、明日の午前中に巫女の会議を開くことと、探求の巫女とシュウにも出席して欲しいことを伝えて帰っていった。あたしは少しだけ興奮しているみたいで、宿舎までの道でタキのように黙っていることなんてできなかったから、自然と2人に話しかけていたの。
「2人ともおなかが空かない? あたし、お夕飯食べてないからペコペコなの。もしよかったらあたしの宿舎に食事を用意するわ」
 確か今日の夕食は炊き出しがあったはずだから、残っていれば2人の分も用意できるはずだもん。もちろんタキだって食事してないからあたしの宿舎で一緒に食べてもいいし。シュウは手首に巻きつけた金属の何かを覗き込んでちょっと驚いた顔をした。
「……腹も減るはずだな。このまま朝まで食事ができないなら今食べておいた方がいいや。祈りの巫女、お願いできる?」
「ええ、もちろんよ。ちょっと時間がかかるかもしれないけど」
 横から探求の巫女もシュウの手首を覗き込んだ。その仕草に答えるように、シュウは自分の手首を見せながら言った。
「午後ハチジスギだよ。今が真夜中だとすると、ヨジカンくらいジサがある計算になる」