真・祈りの巫女286
 顔を見合わせた2人は互いに視線で会話を交わしたようで、やがて左の騎士が言った。
「少し、2人だけで話をさせてもらえないかな」
「ええ、いいわ。……私たちは少し外に出ていましょう」
 そう守護の巫女に促されて、あたしたちはいったん神殿の扉を出た。その頃にはあたしはすっかり2人を信用する気になっていたの。だって、あの2人の反応はごく普通の人たちのものだったんだもん。たとえば、もしもあたしが突然リョウと2人っきりで別の村の神殿で目を覚ましたとしたら、きっと彼らと同じように戸惑ったと思うから。
 あたしたちの姿を見て、さっきからずっと広場で待っていた巫女や神官たちから、守護の巫女の名前を呼ぶ声が飛んだ。それに答えるように守護の巫女は石段を数段降りて、彼らが目覚めたこと、名前が探求の巫女とシュウというのだということ、それと今夜は宿舎に分かれて休むことなんかを話し始めたの。シュウは左の騎士だったけど、それについて伏せたのは言ってみればごく自然な処置だった。あたしとタキはその様子を石段の上から見守ってたんだけど、やがて神官や巫女たちがそれぞれの宿舎に引き上げ始めたときにタキはあたしに話しかけてきた。
「祈りの巫女、いったいあの2人は何なんだ? 君には本当に心当たりがないの? その……」
 タキが言葉を濁したのは、たぶんあたしが彼らを呼んだのだという探求の巫女の言葉のことだった。もしかしたらリョウのことを考えているのかもしれない。……タキは間違いなく気づいているんだ。そう確信して、あたしは更に気を引き締めた。
「心当たりは何もないわ。本当よ。もっと話を聞いてみなくちゃなんとも言えないけど」
「彼らが嘘を交えない保証はないだろ?」
「そういう心配はしてないわ。……それより、あの2人って恋人同士だと思わない? あたしカーヤに頼んで探求の巫女と一緒の部屋に寝させてもらおうかな。そうしたら抜け駆けしてたくさんお話ししちゃうの。なんだかすごく楽しくなりそうよ」
「なにのんきなことを言って ―― 」
 背後に人の気配を感じてタキが言葉を切ると、そのあとすぐに神殿の扉から探求の巫女と左の騎士が出てきたんだ。