真・祈りの巫女283
「……ユーナ」
 あたしの顔を見つめていた男の人は、聞こえるか聞こえないかくらいのかぼそい声でそうつぶやいた。もしかしたら実際に声は出ていなかったのかもしれない。あたしは彼の口元を見ていたから、彼がそうつぶやいたのが判った。
「こんばんわ」
 あたしがにっこり笑ってそう言うと、2人ともかなり戸惑ったみたい。互いに互いの服を掴み合いながら顔を見合わせたの。2人が再びこちらを向くのを待って、あたしは続けた。
「あたしはこの村の巫女、祈りの巫女のユーナよ。まずは名前を教えて。あなたもユーナというの?」
 2人はまた顔を見合わせる。少し驚いたようで、でもしばらくして男の人が1つうなずくと、彼女はおずおずと声を出した。
「ユーナよ。マツモトユーナ。……探求の巫女」
「探求の巫女?」
 初めて聞く名前だった。あたしはもちろん驚いたけど、うしろにいたタキも、守護の巫女とセリも、驚く気配を示した。
「あなたは? さっき探求の巫女がシュウと呼んでいたけど」
 2人ともだいぶ落ち着いてきたみたいだった。ようやく互いの服から手を放して、笑顔さえ浮かべるようになっていた。
「シュウでいいんだけどね。一応、カザマシュウイチ、って名前がある。……ユーナの左の騎士だ」
 今度はあたしたちが顔を見合わせる番だった。あたしは意見を求めてうしろを振り返ったけど、タキもセリも首を振るだけだったの。2人とも、探求の巫女という言葉も、左の騎士の存在も、なにも知らないんだ。あたしが再び探求の巫女と左の騎士に向き直ると、今度は先に左の騎士が話しかけてきたの。
「祈りの巫女、まずはここがどこなのか教えてくれないか? オレたちは自分がどこに飛ばされてきたのか知りたい」
 その「飛ばされた」という言葉はよく理解できなかったけど、あたしは以前タキがリョウに言った言葉を参考にして彼に答えた。
「ここは、あたしたちが住んでいる村の、東の山の中腹に建てられた、神殿の建物の中よ」