真・祈りの巫女281
 神殿のゆかに倒れたまま眠っている2人は、年の頃はあたしとほとんど変わらないくらいに見える男女だった。男の人はぜんぜん知らない顔だった。そして、女の人の方は、あたしが知りすぎるくらい知ってる人の顔をしていたんだ。
「祈りの巫女が……2人……?」
 うしろから覗き込んでいたタキがあまりの驚きにかすれた声を上げた。あたしだって声も出せないくらい驚いてるよ。自分が眠ってるときの顔なんてとうぜん見たことがなかったけど、それでなくたってその人があたしとそっくり同じ顔をしてるのはよく判ったもん。服装の方は2人とも基本的には同じ形のものを着ているようで、あたしが見たことのない……少なくとも、ちゃんとした状態では見たことがない形をしている。 ―― もしかしたらタキは気づいたかもしれない。だけどそれきり何も言わないで、呆然と座り込んだあたしのうしろで微動だにしなかった。
「祈りの巫女。……これはどういうことなの? あなたには判るの?」
 そう声をかけてきたのは守護の巫女だった。あたしはそれで多少我に返ったみたい。振り向かないで答える。
「判らないわ。教えて守護の巫女。この人たちはいつ、どうやってここに来たの?」
「いつどうやって来たのかは判らないけど、最初に気がついたのは運命の巫女よ。影が全滅したことが伝えられて、それなら未来も変化したかもしれないって、運命の巫女が未来を見るために神殿に入ったの。その頃には村人たちが帰宅を始めていたから、彼女も無用に騒ぎ立てることは避けたのね。しばらくして神殿から出てきて、セトに頼んで私を呼んでくれたの。運命の巫女の話では、彼女が神殿に入ったときには既にこの2人はここに倒れていたそうよ。それでとにかくあなたを呼ばなきゃって話になって」
「神託の巫女は? この2人に触れてみれば何か判るかもしれないわ」
「判っているでしょう? 産まれたばかりの赤ん坊ならともかく、この2人がちゃんとした意思を持った人間だったとしたら、眠ってる間にそんなことはできないわ。……村人にはまだこのことは漏れていないのだけど、神官や巫女たちには隠し通せないから話してあるの。祈りの巫女、あなたはこれからどうするのがいいと思う?」
「とにかくこの2人を起こした方がいいと思うわ。……どちらにしても、このまま一晩中こうしている訳にはいかないもの」