真・祈りの巫女280
 神殿前広場では今、夜だというのにここにいる巫女と神官のほとんどが集まって、ひそひそと話しながら視線を合わせていた。みんな、何かに怯えてでもいるかのように静かで、声を荒げている人はまったくいない。そんな人の輪の方へ近づいていくと、あたしに気がついた人はみんなちょっと驚いた顔をするの。そして隣の人をつついたり、互いに顔を見合わせたりするんだ。まるであたしのことすら恐れているみたいに。
「みんな、祈りの巫女が来たわ。道をあけて」
 守護の巫女はけっして大きくはないけどよく通る声でそう言った。でも、それすらもほとんど必要がないように、みんなすーっとあたしの前に道をあけてくれるの。あたしはうしろにずっとついてきてくれているタキと顔を見合わせた。タキも訳が判らないという風に首を振る。その表情も不安そうで、あたし自身も同じ表情をしていることが判った。
 石段を上がって、閉ざされた神殿の扉の前で足を止める。そこには守護の巫女付きの神官の1人、セリが立っていた。
「中の様子は?」
「変わってない。物音ひとつしないから、おそらくまだ目覚めてないんだろう」
「判ったわ。あなたも一緒にきて。……祈りの巫女、なにも説明しないでごめんなさい。とにかく先に中にいる人を見てもらいたかったの。……おそらくあなたはとても驚くと思うわ」
「……中に人がいるの? あたしが驚く人って、いったい誰? 眠ってるって……」
「見てもらえば判るわ。……少なくとも、私たちがどうしてあなたを待っていたのかは判ると思うわ」
 そう言って、守護の巫女は神殿の扉を開けた。
 神殿の中はいつもよりもずっと明るかった。天窓から月の光が差し込んでいることもあるけど、それ以外にろうそくやランプがあちこちに置かれていて、夜なのにかなりの明るさを保っていたの。その明かりの中央に横たわってる人影がある。見てすぐに1人じゃないことは判ったけど、近づいていくとそれが2人の人間なんだということが判った。
 あたしは床に置いてあったランプを持って2人の顔を照らしてみる。そして、そのうちの1人にあたしの目は釘付けになっていったんだ。