真・祈りの巫女279
 訳も判らないまま祈り台を降りると、リョウはあたしに断って狩人たちのところへ行ってしまった。西の森の道、狭い範囲での攻防は激しかったから、やっぱり何人かの狩人は怪我をしたみたい。あたしが大丈夫なのが判ってリョウはそっちの方が心配になったんだ。迎えに来た神官たちはほとんど説明らしいことをしてくれなかったから、あたしは神殿への道々でタキに訊いてみたの。
「狩人は何人くらい怪我をしたのかな。大怪我をした人はいなかった?」
「ちゃんと調べてあるよ。……それほど大きな怪我をした人はいなかったみたいだね。詳しいことはこの紙に書いてあるから」
 タキはすっかりあたしの行動パターンを判ってしまっているみたい。今日はもう遅いけど、でも少しくらいなら祈る時間もあるかもしれないから、あたしはタキにお礼を言って紙を内ポケットにしまった。
 あたしたちが表通りを通る頃には避難していた人たちはほとんど家に帰ったみたい。それでもすれ違う数少ない人たちは、あたしの顔が見えると「ありがとう」って声をかけてくれる。声はかけないまでも、人の視線が変わっているのにあたしは気がついたの。村のみんなはあたしが村に降りて祈りを捧げたこと、その祈りが通じたことを、素直に喜んでくれていた。
 みんながあたしにあまり声をかけられなかったのは、きっと先を歩く2人の神官が何かにおびえたように足を速めていた事もあるんだろう。何度かきっかけを見つけて声をかけたんだけど、そのたびに2人の返事は同じだった。
「とにかく神殿へ行ってみれば判るから。……本当に判らないんだ。どうしてあんなことになってるのか」
 あたしが知りたいのはその「あんなこと」の方だったんだけどな。理由なんか判らなくても、何が起こっているのかくらい教えてくれてもいいと思ったの。でも、あとから考えたら、2人はあたしに先入観を植え付けたくなかったのかもしれない。2人は本当に混乱していて、自分自身で何かを判断することを恐れていたのかもしれない。
 やがて神殿までたどり着いたとき、あたしはすぐに守護の巫女に迎えられた。
「よく無事で戻ってきてくれたわ。影を退けてくれたことについては改めてお礼を言わせてもらうけど。……帰って早々で申し訳ないんだけど、こちらに来て欲しいの。私もどう判断していいか判らないことが起こってるのよ」
 守護の巫女すらも自分で判断することができないなんて……。促されて、あたしは神殿前広場へとつれて来られていた。