真・祈りの巫女277
 クレーンが倒れたとき、その腕に吊り下げられていたショベルは着地寸前だったからほとんど落下の衝撃を受けなかったはずだった。だけど倒れたクレーンの腕がショベルにのしかかって、ショベルは動けなくなっていたの。今までの低い咆哮とは違う高い悲鳴をショベルは上げて、必死でクレーンの腕から逃れようとしているのが遠くで見ていたあたしにも判った。
 闇夜を切り裂くすさまじいショベルの悲鳴。近くで聞いていたのだとしたら、あたしも耳を覆いたくなっただろう。そんなショベルにリョウが近づいていったから、あたしは一気に緊張したの。あわててショベルの動きを止める祈りを始めたけど、でも祈りの効果が現われるよりも早く、リョウはショベルの甲羅の下から魂を抜き取っていた。
 獣鬼たちの咆哮も悲鳴も絶えて、一瞬の静寂が訪れる。でもその次の瞬間、静寂は狩人たちの歓声に入れ替わっていた。あたしはまさかと思って沼の光の輪を見たけれど、獣鬼たちが死んだのが判ったのか、円盤は小さくなってすぐに消えてしまったんだ。それを確かめたあとあたしは心の底からほっとして、一気に身体の力が抜けていったの。その場に崩れ落ちるように倒れてしまって、タキがあたしを呼ぶ声がすごく遠くに聞こえた。
 それから少しの間、あたしは意識を失ってしまったみたいだった。
 気がつくと、あたしは暖かい感触に包まれていた。この暖かさはよく知ってるよ。この腕も、この匂いも、あたしが1番大好きな場所だったから。
「気がついたな」
 声に顔を上げると、リョウはすごく優しい微笑であたしを迎えてくれた。リョウは祈り台の柱にもたれて、気を失ったあたしを胸に抱きかかえていてくれたの。あたしはまだ少し頭がボーっとしていて、リョウの腕が温かいのが嬉しくて、だから少しの間リョウの腕の中から抜け出さないでいたんだ。リョウもきっとあたしが疲れてると思ったんだろう、そのまま抱きしめていてくれた。
「よく、やったな。……ありがとう」
 リョウがそう言ったとき、あたしはとつぜん悲しくなった。なぜなら、あたしは自分の祈りがどうして通じたのか判ってしまったから。
 ……守護の巫女が言った通りだった。あたしはもう既に1度、禁忌の枠を踏み越えてしまった人だったんだ。