真・祈りの巫女275
「リョウ! 待って!」
 あたしの叫びは既にリョウには届かなかった。ローダは両方の目に強烈な光を灯して、すさまじい勢いでまっすぐにあたしを目指してくる。リョウはローダを止めようとしているんだ。あたしの祈りはまだ神様に届いていないのに。
 まるであの夢の再現を見てるみたいだよ。あたしの祈りは通じなくて、リョウはまた死んでしまう。……嫌。そんなのぜったいに嫌! あたしはもう2度とリョウを死なせたりしない。リョウを獣鬼になんか殺させないよ!
 あたしはもうクレーンのことは忘れていた。ローダの名前を呼びながら必死に祈りを捧げたの。ローダ、お願い止まって! 神様、お願いローダの動きを止めて ―― !
  ―― リョウの命を助けて!!
 リョウとローダの距離はかなり近くなっていて、ほんの数瞬のうちにリョウはローダに轢き殺されてしまいそうだった。でもそのとき、ローダが不意に動きを止めたの。ローダの足はまるで車輪のように回ってたんだけど、車輪の回転はそのままで動きだけが止まったんだ。
 奇妙な咆哮を上げてあがくローダ。足の車輪は空回りして土埃を巻き上げている。リョウが最初少し用心して、でもすぐに近づいてローダの身体によじ登り始める。あたしは祈りが通じた喜びよりも再びローダが動き始めるのが怖くて、必死になって祈りを続けた。今ローダが動いたら間違いなくリョウの命はなくなってしまうから。
 それはあたしとローダ、そしてリョウとの命をかけた戦いだった。その戦いは、やがてローダが咆哮を止めたことで不意に終わりを告げた。ローダの目が光を失っていく。リョウはローダの甲羅の中に入り込んで、魂を抜くことに成功したんだ。
「祈りの巫女!」
 気がつくと、タキはいつの間にか祈り台の上に乗って、あたしの腕を引いていた。ローダに視線を移してその意味が判った。あたしが夢中になって祈りを捧げている間に、ローダはいつの間にか目印のかがり火を超えてしまっていたんだ。
「祈りの巫女……やったんだな。とうとう祈りが通じた……!」
 その声にあたしもほっとしかけたけど、まだ戦いは終わってないことを思い出して、遠くのクレーンを見つめた。