真・祈りの巫女276
 クレーンは今、新しく出てきた獣鬼を持ち上げようとしているところだった。クレーンほどではないけれど長い曲がった腕を1本持った獣鬼だった。リョウは既に森の方に向かって駆け出している。
「タキ、あの獣鬼の名前は何?」
「ショベルだ。あの腕がクレーンよりもずっと自由に動く」
「判ったわ。タキは台を降りていて」
 短い会話のあと、あたしはショベルの名前を何度か繰り返して記憶した。それからクレーンの動きを止める祈りをする。でも、それだけではダメなのがすぐに判ったの。クレーンの周りを最後に出てきたブルドーザが動き回っていて、クレーンが止められたとしても狩人たちは容易にクレーンに近づくことができなかったから。
 あたしはブルドーザを止める祈りを始めた。さっき祈りが成功したときの感覚を思い出そうとしたけれど、そのときは夢中で何がなんだか判らなかった。ただ1つ判っていたのは、あたしのリョウを助けたいという想いが神様に通じたのだということ。ブルドーザはリョウを殺した獣鬼。この獣鬼を今殺せなければ、リョウは再び獣鬼に殺されてしまうかもしれないんだ。
  ―― もう2度とリョウをブルドーザに殺されたくない。あんな悲しい思いは2度としたくないの!
 そのとき、ブルドーザは動きを止めた。すぐに近くにいた狩人たちの何人かがブルドーザの身体に群がっていく。ブルドーザもローダと同じように目に光を灯していたのだけど、その光がすうっと消えて遠くで見ていたあたしにもブルドーザが死んだことが判ったの。きっと狩人たちはあの草原で死んだブルドーザの身体で何度も魂を抜く練習をしていたんだ。
 残った獣鬼はあと2つ。クレーンは腕を長く伸ばして、ショベルを穴の反対側へ下ろしているところだった。たぶんバランスが悪いから、クレーンも慎重に作業していて思いのほか時間がかかってるんだ。今までの祈りでかなりこつを掴んでいたあたしが祈り始めると、ショベルの身体が地面に着くか着かないかのところでクレーンは動きを止めた。
 ショベルから少し離れたところでリョウが見守ってる。クレーンに群がった狩人たちが競うようにクレーンの魂を抜く。
 クレーンの目から命の光が消えた次の瞬間、クレーンはバランスを失ってゆっくりと横倒しになっていったんだ。