真・祈りの巫女273
 クレーンが移動を始める直前から、あたしは祈りを始めていた。集中力を高めて神様の存在をより近く感じられるように意識を向ける。その途端、あたしの中にすさまじいほどの邪念が割り込んできたの。あたしはその邪念に負けないように、心の中でクレーンの名前を繰り返しながらその動きが止まったところをイメージしていた。
 雷のようなクレーンの咆哮と地鳴りが邪念とあいまってあたしの心を撹乱していく。祈りはまだ届かなくて、クレーンは誰にも邪魔されないまま森の入口へとたどり着いていた。穴の手前で止まったとき、何人かの狩人たちがわらわらと飛び出してくるのが見えた。その姿が見えたのか、クレーンはその長い腕を更に長く伸ばして振り回し始めたの。その動きに狩人たちは近づくことができなかった。あたしは腕の動きを止めるように祈っていたのだけど、そのとき再びタキの声が割り込んできた。
「あれは……? ブルドーザか?」
「……いや。似ているが違う。あれはローダだ」
 見ると、沼の光の円盤から再び何かが出てきていた。タキが言うとおりブルドーザに似てる。だけどあたしはその名前の方に聞き覚えがあって、思わず口を挟んでしまったんだ。
「ローダって? リョウにいろいろ教えてくれたおばあさんの?」
 リョウは一瞬何を言われたのか判らないみたいだった。
「それはヨモ・ローダだ。今出てきたのはホイール・ローダ。……いいからこっちのことは気にするな。おまえはクレーンに集中しろ!」
 そうリョウに一喝されたから、あたしはできるだけリョウを気にしないようにクレーンの動きを観察しながら祈りを注ぎ続けたの。
 クレーンは身体の上半分を回転させて、1本だけある長い腕を振り回している。腕の先の方に紐のようなものがついていて、更にその紐の先端にあるものが秩序なく揺れて狩人たちをなかなか近づかせなかった。腕の逆側から魂が収められた甲羅に近づこうとしても、甲羅そのものが回転してるから容易に近づけないんだ。あたしは焦る気持ちを押し殺して、とにかく腕の動きを止めなきゃって、ただそのことだけに集中する。
 やがて2つ目の獣鬼ローダが近づいてくる。ローダはクレーンに群がる狩人たちを蹴散らして、穴の手前で動きを止めた。