真・祈りの巫女270
 リョウは少し方角を確かめるように見回したあと、祈り台がある岩場の方角に向かっていった。きこりたちは今日の午前中も作業してくれていたはずだから、うまくすれば今頃完成してるかもしれないんだ。あたしとリョウは昨日に引き続き祈り台の様子を見ることにしていた。
「リョウはああいうところでしゃべるのがあまり得意じゃないの?」
「場所にかかわらず、人としゃべることに慣れてない。……特におまえとは何をしゃべっていいのか判らない」
「そんな風に思えないよ。だって、今もちゃんとしゃべってくれてるもん。タキだって前より付き合いやすくなったって言ってたんでしょう?」
「会話に目的があるからな。それがなくなっちまったら、俺くらい一緒にいてつまらない人間はいないだろう」
 あたしはリョウの言葉が実感としてはさっぱり判らなかった。だって、リョウは今までもいろいろ話しかけてくれたし、雑談もたくさんしたし、人としゃべることに慣れてないなんてぜんぜん思えなかったんだもん。それに、あたしはリョウといてつまらないなんて思ったことない。さっきみたいに黙ってると怒ってるのかと思ってちょっとドキドキしちゃうけど、それだってあたしにはすごく嬉しいことなんだ。
 リョウの声は特に悲観的な訳でもなかったし、あたしはリョウが怒ってたんじゃないってことが判ってほっとしたから、リョウが言ったことは心に留めておくだけにした。それから少し歩いていくと、やがて昨日の岩場に祈り台が見えてくる。もうほとんど完成してるみたいで、2人のきこりがあちこちに仕上げの釘を打っていたの。そこまで作業が進んでいるとあたしたちにはもう何も手伝うことができなかったから、完成までの間、2人でずっとその作業を見守っていたんだ。
「 ―― こんなもんだろう。祈りの巫女、ひとまず完成だ」
「うしろから上がっておいで。なにか不都合があったら言ってくれよ」
 きこりたちに呼ばれて、あたしはうしろ側につけた梯子から台の上にのぼったの。そこからの眺めは思ったよりもずっと高くて、ちょっと怖いくらいだった。もともと高いところに立ててある上に風除けが視界をさえぎるから、実際の高さよりもすごく高く感じるの。そこに祈りのときと同じように座ってみると村の西半分は見渡せた。西の森も、思ってたよりもずっと近くに見ることができたんだ。