真・祈りの巫女268
「だったら、俺は何のために生き返った? どうして右の騎士が村の再生のために生き返るんだよ」
 カイはとっさに言葉を返すことができなかった。
「祈りの巫女は最初から村の再生のために祈ってた訳じゃない。神は俺を再生のために生き返らせたんじゃない。俺はこの村を救うために戻ってきたんだ。そうとでも考えなけりゃ、俺が影の倒し方を知ってる意味がねえ」
「……」
「それに、祈りの巫女を狙ってる獣鬼が、祈りの巫女を殺さないままで襲撃を終える訳がないんだ。この戦いを終わらせるためには、村が完全に勝利するしか道はないんだよ」
 たぶん、カイもほかのみんなも、リョウに反対する気力は既に失っていたんだと思う。それはリョウの意見に賛成しているというよりも、むしろ未来に絶望しているからのようにあたしには思えたんだ。あたしの力ではこの災厄を退けることはできない。だから村の再生に活路を見出そうとしていたのに、リョウはあたしが死ななければ獣鬼は襲撃をやめないって言うんだもん。それは村の死を宣告されるのと同じだったんだ。
 でも、リョウ自身はけっして諦めてない。誰に何を言われたって、あたしはリョウが信じてくれるならそれでいいよ。リョウがあたしを信じてともに戦ってくれるのなら ――
 意見は出尽くしたと判断した守護の巫女がこのとき口を開いた。
「最初に言ったとおり、祈りの巫女が村に降りて祈りを捧げることは決定事項よ。影の襲撃は今夜。夜になるから、西の森とその周辺にはかがり火を絶やさないようにして。祈りの巫女、あなたはほんの少しでも危険だと思ったら、すぐに祈りをやめて逃げるのよ。タキの指示にはぜったいに従って」
「判ったわ」
 それから守護の巫女は神官たちに細かい指示を与えて、最後に運命の巫女に言った。
「万が一、祈りの巫女が影に襲われる光景が見えたらすぐに伝えて頂戴。そのときは誰がなんと言おうとこの作戦は中止するから」