真・祈りの巫女269
 長老宿舎を出るとそろそろお昼に近かったんだけど、あたしは先に神殿で祈りを捧げてしまいたくて、1度宿舎に戻ったあと神殿へと入った。今夜のことを中心に祈りを捧げたあと、戻ってカーヤの昼食を食べたの。夜はまた炊き出しに切り替わるけど、きっと食べている暇なんてないもの。あたしが時間をかけて味わいながら食べていたら、食事が終わる前にリョウが宿舎に来ていた。
「……タキは? 一緒じゃないの?」
「あとで行くから先に行ってるように言われた。……祈りの道具があったらよこせ」
 リョウはなんとなく機嫌が悪いみたい。先に食事を終えていたカーヤが気を利かせて道具を準備してくれている間、あたしは最後の1口を詰め込んで、リョウのあとを追いかけて宿舎を出たの。それであわてて忘れそうになっちゃったんだけど、宿舎の入口でカーヤが声をかけてくれたから、あたしは再び神殿に戻って聖火をランプに移した。
 今日は村に降りてしまえば夜まで帰れないから、リョウが背負っている少し大きめの袋の中にはろうそくがかなり多めに入っている。途中、川に立ち寄って水筒に聖水に使う水を補給したときも、リョウはほとんどあたしと顔を合わせようとしなかった。いったい何が気に入らないのか判らなくて、けっきょく何も聞けないまま村の大通りまで来てしまっていたの。このままではすぐに目的地まで着いてしまうから、耐えられなくなってあたしは後ろから声をかけたんだ。
「リョウ、どうしたの? また何か怒ってる?」
 リョウは、まるで今初めてあたしがいることに気がついたみたいに、いくぶん驚いた表情で振り返った。
「別に何も怒ってない。……俺が黙ってるのが気になるのか?」
 あたしは少しだけほっとしたから、笑顔を見せてうなずいていた。
「午前中に頭を使いすぎたから混乱してるんだ。口を開くとおかしなことを言いそうだったからな、黙ってる方がマシだと思って黙ってた。……俺はほんとに頭を使うのが苦手なんだ」
「そんなことないよ。会議のときのリョウ、すごくかっこよかった。ぜんぜん頭を使うのが苦手なようには見えなかったよ」
「あれが限界なんだよ。……もう少し続いてたら逆上して何をしゃべりだしたか判らねえ」