真・祈りの巫女267
 守護の巫女と聖櫃の巫女が、咎めるようにカイを見た。それであたしには判ってしまったの。みんな、たぶんそのことをずっと心の中で感じていて、でもあたしには話さずにいようと思っていたんだってこと。それをあたしに話したら、あたしの気持ちをくじいてしまうことが判っていたから。
 あたしだってうすうす気づいてはいたよ。だって、あたしはずっと祈りの巫女の勉強をしてきたんだもん。今まで、こんなに大きな災厄に出会った祈りの巫女はいなかった。2代目のセーラが出会った災厄はこの災厄に匹敵するけど、そのときには祈りの巫女だけじゃなくて命の巫女が一緒にいたんだ。
「リョウはもともと狩人だし、記憶もないから、この村の歴史には詳しくないだろう。1500年前、わずか100人に満たない村人からこの村の歴史は始まって、以後120年前まで村は11人の祈りの巫女を生んできた。それまでの間、村を破壊するほどの災厄を経験した祈りの巫女は1人だけだ。……だが、その祈りの巫女と同じ時代に命の巫女が生まれている」
 リョウは黙って聞いていたのだけど、このとき何かに気づいたように目を見開いた。
「あとの10人のうち、半分は飢饉や天災を経験している。残り半分は平穏なまま寿命を終えているけど、運命の巫女の文献と照らし合わせると、本当ならくるはずだった災厄を未然に防いでいるのが伺える。つまり、祈りの巫女の本来の力は、天災を未然に防ぐか、あるいは天災が来たあとの再生に適したものなんだ。例を挙げれば、11代目の祈りの巫女の時代には冷夏が村を襲って作物が育たなかった。そのとき、祈りの力は本来ならいないはずの北カザムを村の周辺に導いて、その毛皮を売ることで周囲の村から食べ物を集めることができた。……判るだろう、リョウ。オレたちが今、祈りの巫女を守ろうとしているのがなぜなのか。祈りの巫女は今死んではいけないんだ。村が影に滅ぼされたとしても、祈りの巫女の力があれば、村は再生することができる。それがオレたちの結論だったんだ」
 カイたちはきっと、何度も書庫や宿舎で議論を重ねてきたんだろう。もちろんあたしはショックだった。だって、それはあたしの力が影には通じないって宣告されたのと同じことだったんだもん。でも、嬉しいと思う気持ちもあったの。カイたちはけっして、あたしの力を信じていない訳ではなかったから。むしろあたしが自分の力を最大限に発揮することができるように考えてくれていることが判ったから。
 でも、リョウはけっして納得してはいなかった。更に力強い目をして言ったんだ。