真・祈りの巫女265
 リョウが言葉を切った、その一瞬の沈黙。まるで空気が見えない刃に変わったみたいだった。切っ先がすべてリョウに向いている刃に。
「なっ……! そんなこと考えてる訳ないだろ! オレたちは祈りの巫女を心配してるんじゃないか! リョウ、おまえの方こそ本当は祈りの巫女を殺そうと思ってるんじゃないのか?」
 1人の神官の叫びに同調の声が上がる。ほかのみんなは顔を見合わせながら困惑していた。あたし、この空気が怖かった。だってここでリョウとみんなが決裂しちゃったら、村を守る作戦どころじゃなくなっちゃうかもしれないんだもん。
 でも、リョウだけはずっと冷静なままで、腕を組んで周囲を見回しているの。リョウの視線に気づいた何人かがリョウに注目して、その静けさがほかのみんなに伝染していくぶん静かになったそのとき、リョウは再び口を開いた。
「おまえらはなんにも判ってない。いいか、よく考えろよ。獣鬼は今は短時間の来襲で村をかき回して引き上げていくだけだが、村の人間が逃げるだけで何もしなければ、いずれは村を占拠するかもしれない。大群でやってきて最後には神殿にも攻撃の手を伸ばしてくるだろう。今までと同じことをやってれば早かれ遅かれ必ずそうなるんだ。なぜなら、祈りの巫女の祈りは通じてない。たった1つの獣鬼を殺すことができただけで、そんなものを獣鬼はなんの痛痒とも感じていないからだ」
 獣鬼の大群が村に押し寄せてくる。その光景を想像して、あたしは頭の中が真っ白になる気がした。
「……そんなになるまで神様が放っておく訳がないだろう。その前に祈りの巫女の祈りが必ず村を救ってくれるはずだ」
「現に祈りは通じてないんだ! そんなあやふやな希望を信じていられる事態じゃねえだろ。村が占拠されて、建物も畑もすべて獣鬼に壊されちまったら、この村に生きてる人間はどうなるんだ。おまえらは、また別の土地に新たな村を作ればいい、くらいに思ってるのかもしれねえ。だけどな、神殿の人間はそれでよくても、村に生きてる人間はそういう訳にはいかないんだ。
 ……いいか、村ってのはな、そこに生きてる村人たちのすべてなんだよ。今この瞬間にも、獣鬼に荒らされた畑を必死で耕してる奴がいる。怪我の痛みに耐えながら自分の店を守り通してる奴もいる。そういう奴らが村を失ったらどうなると思ってるんだ。村人はなあ、村がなければ生きられねえんだよ。いくら神殿が無事でも、自分の命が助かっても、村がなくなっちまったら村人は終わりなんだ! ここでのんきに「いつか祈りは通じる」なんて言ってる場合じゃねえんだよ!」