真・祈りの巫女263
 マティはリョウにお酒と、あたしとタキに冷たいお茶を出してくれた。マティはタキにもお酒を出そうとしたんだけど、タキが「オレは飲めないから」と言って断ったの。あたしはタキがお酒を飲めないなんてぜんぜん知らなかった。リョウは知ってたみたいで、ちょっと驚いたんだけど、そういえば昨日の夜は狩人たちと宴会があったって言ってたからリョウもそれで知ったんだろうって思い当たったの。
「ユーナのことはオレも心配してたんだ。オキたちがあんなことになって、次にリョウだろ? そのほかいろいろ噂も耳に入ってきてたしね。でも、思ったより元気そうで安心したよ」
「あたし、今落ち込んでられないの。でも心配してくれてありがとう」
「ユーナは強いね。オレはユーナが小さな頃から知ってるけど、こんなにしっかりした巫女になるとは思ってなかったよ」
 あたし、強いのかな。今はこんなときだからいろいろなことに鈍くなってるけど、本当のあたしはそんなに強い人じゃない気がするの。父さまや母さまのことだって、今は考えないようにしているだけ。もしも村に平和が戻って、いろいろなことを考える時間ができたら、あたしはきっとものすごく弱い普通の女の子になっちゃうんだろう。
「3人とも何か食べていくかい? もう少しするとお客が増えちまうけど、今だったらゆっくり食べられるよ」
「あたしとタキはすぐに帰るわ。でもリョウにはおいしいものを出してあげて」
「記憶がないって聞いたけど、さては食事の作り方も覚えてないのか。……判ったよ。リョウが少しでも何か思い出せるように、以前のリョウが好きだったものを作ってあげよう」
 そう言ってマティは忙しく厨房の準備を始めた。あたしはそれをきっかけにして帰ろうと思ってリョウを見上げると、同じようにあたしを見つめたリョウが言ったの。
「俺はこの店にはよく来ていたみたいだな。常連だったのか?」
「うん、狩人の修行を始めた頃からランドと一緒に来てたみたいよ。最近では夕方あたしと待ち合わせするのに使ってたの。……あたし、これで帰るけど、独りで大丈夫? ランドが来るまでいた方がいい?」
 リョウは馬鹿にするなとでも言うように笑いながらあたしの頭を小突いたから、隣で見ていたタキの方が驚いた顔をしていた。