真・祈りの巫女264
 翌日の午前中は会議があったから、あたしは朝食を摂ったあと、タキが迎えに来てくれるのを待っていた。タキはリョウと連れ立って宿舎へ来てくれたから、どうやらリョウはまた神官宿舎で朝食をご馳走になったみたい。リョウもタキも何も言ってなかったけど、いずれはリョウも自分で食事を作れるようにならないと困るんじゃないのかな。結婚すればあたしが作ってあげられるけど、それもまだしばらく先の話だし、夏の北カザム狩りに出かければどうあがいたって自分で作らなければならなくなるんだもん。
 そんなのんきなことを考えていたのも長老宿舎に入るまでだった。程なくして始まった会議では、リョウが提示した作戦について、ほとんど参加者全員の反対があったんだ。
「これは既に決定したことよ。祈りの巫女には村に降りて祈りを捧げてもらうわ」
「いくらなんでも危険すぎる! 影は祈りの巫女を狙ってるんだろ? リョウがついているからって、祈りの巫女に万が一のことがあったらどうするんだ! 祈りの巫女の代わりはいないんだ。もしも祈りの巫女が死んだら、村は滅びるしかなくなるんだぞ!」
 集まっていた神官たちも、巫女たちも、それぞれ言葉は違っても意見はほとんど同じみたいだった。みんながあたしのことを心配してくれる。それはすごく嬉しいことだったけど、それだけでは済まないんだってことをあたしは既に理解していた。
 リョウはしばらくの間ただ黙って、みんなが交わす議論を聞いていた。矢面に立っているのは守護の巫女。彼女は回り中が敵になってしまった今の状況でも、あくまで毅然とした態度で説得を試みていた。
「今まで祈りの巫女の祈りははっきりした形で影に対する効果を挙げた訳ではないわ。でも祈りの方法を変えればまだ可能性はあるの。祈りの巫女の身の安全については最大限の注意を払う。それでも試してみようとは思わないの?」
 双方の意見は真っ向から対立していて、あたしにはもう妥協策を見つけることすらできなかった。会議はすっかり膠着状態に陥っていた。お互いの意見は言い尽くされて同じことの繰り返しになっていたの。あたりをざわめきが満たしていたそのとき、今までずっと黙ったままだったリョウが初めて声を出したんだ。
「いいかげんにしろよおまえら。祈りの巫女の命を守るって、いったい何のために守るつもりなんだよ。このままの状態が続けばそのうち神殿にも獣鬼が押し寄せてくるぞ。そうなったとき、こいつの命を差し出して獣鬼に命乞いでもするつもりなのかよ」