真・祈りの巫女258
 最初に向かったのはタキが住んでいる神官の共同宿舎だった。入口で声をかけた神官にリョウのことを尋ねると、こちらにはきてないって返事だったから、あたしはそのままリョウの家へ続く道を下っていったの。雨のせいで少し滑りやすくなってたから、できるだけ足元に気をつけながら歩いていく。リョウがいるかどうか判らなかったけど、ところどころで下へ向かう大きな足跡を見ることができたから、たどり着く頃にはもうリョウがここにいるのは間違いないって確信していたの。
 ノックの音には返事がなくて、食卓にも誰もいなかった。ミイは洗濯にでも出てるのかな。そう思って、今度は寝室のドアをノックする。やっぱり返事はなかったけど、あたしはゆっくりとそのドアを開けてみたんだ。
「リョウ、いるの?」
 リョウは、ベッドの上に片膝を立てて座っていて、あたしが顔を覗かせると壁に視線を向けていた。あたしは安心して、部屋に入ってベッドのリョウの足元に腰掛けたの。
「リョウっていつもそう。自分で勝手にあたしの気持ちを決め付けて、勝手に落ち込んでる。リョウが初めて北カザムの夏毛皮を狩りに北の山へ行ったときもそうだったよ。あたし、リョウが必要ないなんて一言も言ってないのに、勝手に解釈して8日も村を空けて。……でも、今の方が少しはいいかな。少なくとも自分が何を考えてるのかあたしにぶつけてくれたもん」
 リョウは瞳に少しの驚きを浮かべて振り返った。そんなリョウに愛しさがあふれていく。リョウがかわいくて抱きしめたくなるの。
「記憶があったときもね、リョウはシュウのことを気にしてた。だからシュウのように優しくなって、あたしに好かれようと必死になってたの。あたしが小さな頃、シュウは優しいから大好きなんだ、って言ったことを気にして。……でも、あたしは優しくないリョウも好きだったのよ。そりゃ、最初はリョウの優しさが嬉しくて、それで好きになったけど、でもリョウが怒ったときもすごく嬉しかった。リョウが本当の自分を見せてくれたのが嬉しかったの。だってあたし、リョウのことがぜんぶ好きだから。怒ったリョウも、すねたリョウも、ぜんぶのリョウが好きなの」
 目に驚きを浮かべたまま、一言も口をきかないリョウに近づいて、あたしはリョウの頭を胸に抱きしめた。愛しくて。
「リョウ、お願い。あたしのことを嫌いにならないで。リョウに嫌われたら、あたしどうしたらいいのか判らないよ」