真・祈りの巫女255
 リョウが言いよどんだのは、あたしやタキへの説明を迷っている訳ではないみたいだった。むしろ、どう説明すればいいのか考えているように見えたの。
 不思議に思ったのは、訊ねたはずのタキ自身が、その説明を望んでいないように思えたことだった。
「……俺はそれほど多くのことを知ってる訳じゃない。なぜ獣鬼がこの村に現れるようになったのか、獣鬼がどんな目的を持っているのか、そういうことは俺にも判らない。獣鬼について俺が知ってるのは、奴がどうすれば動いて、どうすれば動かなくなるのか、それだけだ。騎士については以前ローダという名前の老婆に聞いたことがすべてだ。騎士は巫女を守るために現われる。右の騎士は身体の騎士。左の騎士は頭の騎士。……たぶん、おまえたちが知ってることと同じ内容だろう」
 その通りだったから、あたしはうなずくことで答えた。タキは更に言葉を加えた。
「だけど、騎士自身は自分が騎士であることを知ることはできないはずなんだ。オレがリョウが騎士であることを知ったのも、リョウが死んだあとに神託の巫女がそう言ったからなんだ。以前のリョウは自分が騎士だったことを知らなかったはずだよ」
「同じ村の中にいればたとえ知らなくても騎士として振舞うことはできるんだろうけどな。死んだあとの俺は、自分がこの村にいたときの記憶を持ってなかったんだ。だから俺はそれを知る必要があったんだろう。ローダにしたところで、俺が右の騎士であることを知ってはいたが、この村のことは何ひとつ知らなかった」
「……まあ、それについてはオレには理解できそうにないな。左の騎士のこともそのローダに教えてもらったのか?」
「ああ、そうだ」
「左の騎士はいったい誰なんだ?」
 前後のいきさつをすべて省いて、タキは単刀直入に切り出した。そんなタキの質問に、リョウはまた少しだけ答えを迷っていた。それはたぶん、「この村では騎士の存在は明かさない」という不文律がそうさせたんだと思う。でも、あたしもタキも、今更聞かずにいることはできなかったの。
「左の騎士はあいつだ。西の沼で死んだ、こいつの幼馴染のシュウ」