真・祈りの巫女254
「それじゃ、おまえは今のところこいつの傍についているのが最優先順位だと思っていいんだな。それ以上に優先する仕事はないんだな」
 タキはまだ少し顔を赤くしていたけど、リョウの問いにはちゃんと答えていた。
「日常の仕事は今はほとんどお預け状態だし、せいぜい食事当番があるくらいだね。それも祈りの巫女の仕事があればいくらでも融通が聞くし。……そう思ってて間違いないよ」
「だったら頼む。……明日、こいつが祈りを捧げている間、ぜったいにこいつから目を離さないでいてくれないか? もし万が一、獣鬼の奴が襲ってきたら、何が何でもこいつを安全なところへ逃がしてやって欲しい」
 そう、真剣な目をして言ったリョウに、タキも真剣な表情で答えたの。
「今更だよ。オレは最初からそのつもりだ」
「おまえの判断を信頼したいんだ。おそらくこいつの判断とおまえの判断は食い違う。たとえほんの少しでも危険だと思ったら、その判断をけっしてこいつに委ねるな。たとえひっぱたいてでも、殴って気絶させてでも、こいつを森の中へ逃がすんだ。それでなければ俺は安心して戦えない」
「……」
「おまえに、左の騎士の代わりを頼みたい」
 リョウの言葉に受けた衝撃の意味を、あたしはとっさに理解することができなかった。
 少しの間、3人の中に沈黙が流れて、やがてじわじわと違和感が侵食していく。リョウがこの言葉を言うために必要な事象はなんだろう。1つは、タキが左の騎士ではありえないこと。もう1つは、あたしにとっての左の騎士が、今ここには存在していないこと。
 そして、リョウはその2つのことを知っている ――
 あたしと同じものにタキも気づいていた。沈黙を破ることを恐れるように、タキは静かに言った。
「……つまり、オレは祈りの巫女の左の騎士じゃなくて、本当の左の騎士はこの村にはいないんだな。 ―― リョウ、そろそろ説明してくれ。君はいったい何を知っているんだ?」