真・祈りの巫女251
 リョウが言った「右の騎士」という言葉に、多少でも驚きを見せたのはタキだけだった。たぶん守護の巫女は守りの長老にリョウとの会話をすべて聞かされていたのだろう。でもそれ以上に、あたしたちはリョウが知っていることについて「驚く」という感情をすでに持たなくなっていたんだ。
 守護の巫女は深い溜息を吐いた。
「……恐ろしいことだわ。私には、あなたが何者なのかまだ判らない。もしもあなたが影の側にいる人間で、私たちを騙しているのだとしたら、みすみす祈りの巫女を危険にさらしてしまうことになる。この恐ろしさがあなたに判る? リョウ」
 リョウはあたしが想像したよりもはるかに冷静に言葉を返していた。
「俺にだって判らねえよ。自分が何者か、なんてな。俺もあんたも、自分が正しいと思ったことをやるだけだ。実際それしかできない」
 守護の巫女ははっとしたように目を見開いた。その意味をあたしは読み取ることができなかったのだけど、やがて心を決めたように表情を引き締めたの。
「判ったわ。リョウの作戦を採用しましょう。ほかに必要なことがあったらすべて私に言ってちょうだい。私はあなたを信じる」
 その守護の巫女の言葉にはリョウは答えなかった。守護の巫女はすぐにあたしを振り返って、痛いくらいにきつく両肩を掴んだの。その真剣な視線に、あたしは釘を打たれたように動けなかった。
「いい、祈りの巫女。ぜったいに死んではダメよ。少しでも危険を感じたらすぐに逃げるのよ。村のことなんか考えなくてもいいわ。家も畑も、たとえ影に壊されても時間をかければ元に戻すことができる。でも、あなたの命だけは失われたら2度と元には戻らないの。それだけは約束して頂戴!」
 その言葉の強さに押されて、あたしはやっとうなずいた。
「リョウ、タキ、祈りの巫女をお願い。彼女は無茶をするの。夢中になったら自分の命のことなんか忘れてしまうの。だからできる限り気を配ってあげて。今、村に希望があるとするなら、祈りの巫女がいるってことだけなのだから」
 あたしはこのとき初めて、守護の巫女の村を思う気持ちの強さがどれほどのものなのか、判ったような気がした。