真・祈りの巫女249
 リョウの情熱が、守護の巫女を動かしたの? 彼女はただ村を守るとしか言ってなかった。影を追い返すことしか考えていなかったのに。
 リョウが変えているんだ。守護の巫女も、タキも、それからたぶん、守りの長老も。
「とにかく、話は全部聞くわ。この祈り台はどこへ置くことになるの? 祈りの巫女の安全は確保できるの?」
「昨日村を回ってだいたいの地形は頭に入った。俺が考えてるのは北西にある崖の上だ。あの場所なら西の森も見えるし、村の西半分は見渡せる。西の森から遠くないから、俺がこいつに獣鬼の名前を伝えてから現場に走ってもあまり時間がかからない。万が一こいつが祈りの途中で襲われても、背後の森に逃げればかなり時間が稼げるだろう。獣鬼が村にいるのはそれほど長時間じゃないらしいし、獣鬼ならあの崖を上って森の木をなぎ倒して追いかけるほどの力はないからな」
「もしも、今あなたが思っている獣鬼以外の影が現われたら?」
「そのときは最初に俺が警告してさっさと逃がす。……俺の婚約者だ。死なせはしねえよ」
 リョウがそう言った次の瞬間、その場になんとも言いがたい空気が流れたの。でも、あたしはリョウがどんな顔をしているのか、見ることさえできなかった。だって、こんな公衆の面前で、いきなりそんなことを言われたら恥ずかしいよ。下を向いてるしかないじゃない!
 ちょっと含み笑いを漏らすように言ったのは守護の巫女だった。
「……そうよね。祈りの巫女はあなたにとって、祈りの巫女である前にたった1人の婚約者なのよね。1番彼女を心配しているのがあなた自身なんだってことを忘れてたわ。……続けて。影が出てきたあとはどうするの?」
「獣鬼が何体出てくるのかは判らないが、まずは森の手前の穴で止まる。俺はそのすべてが出てくるまで待って、こいつに名前を伝える。森の中にも狩人を配置しておくが、おそらくそう簡単には殺せないはずだ。その場で動き回って撹乱してくる。その間に、穴を突破される」
「あの穴では獣鬼を完全に止めることはできないってこと? あの穴は無駄になるの?」
「いや、無駄じゃない。少なくとも俺があの森へ行くまでの時間は稼げる。その間にこいつの祈りが獣鬼の動きを止めれば、そのうちの何体かは狩人が殺せるはずだ。穴の手前の獣鬼をすべて殺したら、あとは穴を突破した獣鬼を祈りで止める。だから多少の被害は覚悟しておいてくれ。今の段階で完璧な作戦は立てられないんだ」