真・祈りの巫女247
 あたしが長老宿舎へ着いたとき、リョウはテーブルの上に広げた紙に何かを書いていて、守りの長老と守護の巫女がリョウの手元を覗き込んでいるところだった。あたしはリョウの邪魔をしないように、最低限の動作だけで挨拶して、テーブルのいつもの席に腰掛ける。リョウも気づいたようだったけど、特に何の反応もしないまま、その作業を続けていた。
 リョウは扱いづらそうに筆を握っていたけれど、描いている線は意外にきれいだった。普通、神殿以外の人は文字を読めなかったし、たとえば漆職人のような仕事ででもなければ筆の扱いを習う機会もほとんどない。だからリョウも筆を使ったことなんかないんだ。それなのに、こうして見ている間にもリョウはどんどん筆の扱いに慣れてきていたの。太い線と細い線の使い分けも自在にできるようになって、描いているものがだんだん形を成していった。
 やがて、リョウが詰めていた息を吐いて筆を置いたとき、守護の巫女が話しかけた。
「それが祈り台の絵図面? どう見ればいいの?」
「こっちが下だ。この部分に板があって祈りの巫女が座る」
 リョウが差し出した紙をあたしも覗き込んでみる。そこに書いてあったのは、長い4本の足がついた建物のようなものだった。4本の足は上の方にも伸びていて、屋根がついてるみたい。そして、あたしが座る場所だとリョウが言った板の周りには別の板が囲ってあって、たぶんろうそくが消えないような風除けになってるんだ。
「材料さえあれば俺でも作れるかもしれないけどな。立てる場所が不安定だから、できればちゃんとした技術のある奴に頼みたい。だがそれほどしっかり作る必要もないだろう。半日くらいで何とかなるか?」
「大きさにもよるわ。高さはどのくらいなの? 台の広さは?」
「台までの高さは俺の胸くらいでいい。広さはどのくらい必要だ?」
 何の説明もないままいきなり振られて、あたしは戸惑ってしまっていた。
「ええっと、あたしが座るだけなら30コント四方もあれば十分だけど、ろうそくを置かなければならないから、最低80コント四方は欲しいわ。……それに、あたし1人じゃこんな高い台に上れないよ。梯子をつけてもらわなきゃ」