真・祈りの巫女245
 雨が降ると、神殿ではほとんど動きがなくなる。今は非常時だから多くの神官や巫女は神殿に常駐しているけど、普段のときだったら朝雨が降ってると誰も山を登ってこないの。よほど緊急の用事がない限り、宿舎を出る人はいなくなる。雨が嫌いだってこともあるけど、道かぬかるんだり崖が崩れたりして危険だっていう理由の方が大きかった。
 今日の雨は午前中で止みそうだったから、あたしも用事はぜんぶ午後に回して、ずっと宿舎の中ですごしていたの。カーヤの仕事を手伝ったり、オミの食事の世話をしたり、部屋で日記を読み返して細かいことを付け加えたりしていた。そうして、ようやく空が明るくなってきた頃、ノックの音がしてタキが姿を見せたんだ。
「どうしたの? タキ。雨が止んだの?」
「いや、まだ少し降ってるよ。……祈りの巫女、雨の中ほんとに悪いんだけど、ちょっと守りの長老宿舎まで来てもらえないかな。どうも君抜きでどうこうできる事態じゃなくなってきそうなんだ」
「とにかく中に入って。身体を拭いた方がいいわ」
 タキはカーヤが差し出した手拭いは断って、ここまでかぶってきた大き目の布で簡単に水滴を払ったあと、食卓の椅子に腰掛けた。
「どうかしたの? あたしのことでなにかあったの?」
「ちょっとね。とりあえず最初から話すよ。……昨日、リョウはずいぶん遅くまで狩人たちと話していたんだ。その場でもかなり活発な意見交換ができたみたいだよ。いつの間にか誰かが食料やお酒なんかを持ち込んで、最後はほとんど祭りのようになっちゃってね。けっきょくオレも最後まで付き合ってたんだ」
 そう話し始めたタキは心なしか楽しそうで、あたしは羨ましくなっちゃったの。だって、あたしが宿舎に帰ったあと、そんな楽しいことがあったなんて。独りだけのけ者にされた気分だよ。
「それでまあ、ずいぶん遅くなっちゃったんだけど、昨日はリョウとランドはリョウの家へ帰ってね、オレは自分の宿舎に帰ったんだ。で、今朝早くリョウが突然オレの宿舎にやってきて、守りの長老に会いたいって言うから取り次いで。そのあと守護の巫女も交えて今もずっと話してるんだけど、平行線をたどっててね。守護の巫女に君を呼んでくるように頼まれたところなんだ」